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インド太平洋秩序の主宰者は日本~増大するチャイナリスクには複眼思考の対中戦略で~

トランプ政権のもとで進んできた米中デカップリングのなかで、いよいよ日本企業も米中いずれかの踏み絵を踏まされる局面に入りましたが、この流れは、米国がバイデン政権へと移行しても、大きくは変わらないと言われています。ここで厄介な問題として浮上するのが、旧ソ連とは異なり、中国が西側自由主義体制内で勢力を拡張してきた存在であること。いくらデカップリングだ、制裁だと言われても、日本の経済界は中国なしには生きていけないという現実が指摘されています。

ルトワック氏が「生まれながらの戦略家」と評した安倍前総理が敷いたインド太平洋の路線は、この面での見事な成果ではありますが、果たして中国に依存したサプライチェーンの組み替えにどこまで奏功するのか。日本はインド太平洋地域においてどのような存在を目指すべきなのか。

以下、松田政策研究所チャンネルにご登壇いただいた論者たちの見方をご紹介しながら、米中両大国の狭間にあるとされてきた日本の国家路線について考えてみたいと思います。

●冷徹な認識に基づいてこその愛国保守
まずその前に、米大統領選をめぐって日本の保守系論者たちの間で起こっている分断と抗争?という奇妙な現象について触れておきたいと思います。生じているのは、

a)リアルに物事を見ようとする人たちを反トランプ派と決めつける人たちのグループ

b)選挙不正に注視する人たちをディープステート陰謀論一派と決めつけるグループ
という、a)、b)両陣営のどっちかでないといけないという雰囲気です。そこには、

c)リアルに物事を見ようとするけれどトランプ応援者であり、ディープステート陰謀論には乗らないけれど選挙不正には注視している私のような人たち

など、存在しないかのようです。

上記a)とb)の間で、かなり激しい非難合戦が訴訟も含めて繰り広げられており、私のチャンネルでも大統領選の模様を淡々と伝えた番組を配信しただけで、バイデン陣営の不正に具体的に触れていない、松田は何も知らないのかといった非難の書き込みが多数なされ、チャンネル登録者が600人ほど一気に減少するという事態になりました。冷静な見解を述べただけで登録取消し者が数千名にも及んだ人気チャンネルもあったようです。

私のチャンネルに関していえば、不正について論者たちがかなり突っ込んでいる内容の番組をいくつも配信しており、ちょっと短気すぎるように思えますが、ここには、どうも、いわゆる「ネトウヨ」とか保守系に典型的なa)グループの方々によくみられる「希望的観測」と現実とを混同して論じる傾向が現れているようにもみえます。

このようなとき、私がよく引用するのは、新古典派を代表する著名な経済学者、アルフレッド・マーシャルが、弟子たちをロンドンの貧民窟に連れていったときに述べたとされる次の言葉…「Cool Head, but Warm Heart」。経済学という冷静なる頭脳を要する学問に携わる者たるもの、温かい心をもって当たらなければならない。

これをもじって私が愛国保守の方々に捧げる言葉は…「Warm Heart, with Cool Head」。せっかくの愛国・憂国の情も、冷徹な現状認識や現実的な対応策の議論を伴わなければ、単なる弱い犬の遠吠えであり、国益実現にはつながらない。

かつて、日本のTPP加入をめぐって保守系論者がTPP亡国論をもって猛反対していた中にあっても、私があえて「TPP興国論」を上梓したのは、避けようもないグローバリゼーションの流れの中で、それを米国の陰謀と怖がって逃げ惑うだけでは国を失う、強いニッポンになって堂々と向き合うことこそ愛国者というメッセージを世に発したかったからでした。

いわば「Sein(存在→である論)」と「Sollen(当為→かくあるべし論)」とを保守系がきちんと冷静に区別した議論をしていかないと、日本は敗けるだけ、国民の幸せは遠くなってしまいます。下図は、いくつかのテーマについて、このことを整理してみたものです。
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●安倍前総理に嫌がらせを続けた日本のメディアと野党~産経の阿比留氏が斬る~
ここから徐々に本論に入っていきたいと思いますが、現在、日本が採ろうとしている国家路線は「インド太平洋構想」。その路線を敷いたのは安倍前総理の功績でした。

「第二次政権だけでなく、第一次政権、無名の頃も併せて、平成の初期に左に寄っていた日本を真ん中に引っ張ってきたというのが安倍氏の最大の功績」、松田政策研究所チャンネルで産経新聞論説委員の阿比留瑠比氏は、こう総括しています。「若手議員のときから教科書問題、慰安婦、拉致問題、北朝鮮の種々の問題に取り組む中心にいた。安全保障や拉致問題は票にならず、党内で足を引っ張られて出る杭は打たれる問題でも信念を貫き、政府の要職に就くとすぐに頭角を現した。」

しかし、改憲を始め多くの課題を実現できませんでした。

その邪魔をし、不当な批判を繰り返したのはメディアと野党。「もりかけは本当に嫌がらせ。野党幹部も法的問題はないが、続けていると印象付けができると述べていた。政権にダメージを与えられると。それで支持率が上がらなかった野党は『抱き着き自爆作戦』」。

ではメディアは?と言えば、「もりかけの頃から緩慢な自殺の道。マスコミがいかに煽っても、国民は冷静。」彼らにとっては「何が正しいかはどうでもよい。叩けばよい。これは権力の監視にもなっていない。マスコミは事実を伝える過程において必要なら権力を監視するもの。順序が逆。条件反射的に政権と敵対する。しかし、朝日は鳩山・菅政権にはべったりだった。マスコミが左翼に立つのは戦後の利権と周辺諸国からの影響。旧ソ連派と旧中共派でずっと争っていた。そこには米国派も日本派もいない。」

青木理氏は「ジャーナリストが国益を考える必要はない」と言ったそうですが、さすがは産経の阿比留氏、「国益や世の中を少しでも良くしようと思わない報道など何の意味もない。」メディアが米国でも同じなのは、今回の大統領選が明らかにしました。トランプのメディア敵対発言には十分な根拠がありますし、コロナ対応も含め、あたかも暴言であるかのように仕立てているのもメディアの仕業。選挙不正の主張もそうかもしれません。

そして日本の野党は「メディアとマッチポンプの共犯関係。政権を取る気がなく、一部のコアな支持者に受ければよい。予算委員会で辻元清美のように相手をけなすだけの質問をメディアが取り上げているのが最悪。今年の通常国会では、普段TVを見られない人がコロナで国会中継をみて、野党はこんなにひどかったのか…ヒステリックに怒鳴りつけて…。国会議員の数の削減は不要と思っていたが、現状では、こんなに議員は要らない。」
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●インド太平洋構想を打ち出した安倍総理は歴史に残る戦略家
これだけ足を引っ張られた安倍氏ですが、実は、世界の戦略的な枠組みを大きく変えた総理であることはほとんど評価されていません。日米豪印に、米国とは歴史的にうまくいかないインドを加え、米国がその戦略に乗った、これは欧州にも伸びていく大戦略でした。

あの世界的な戦略家のルトワック氏は、安倍氏が総理在任中に5回食事をし、「安倍さんには何も教えることはない、体系的に学んだわけではないが、生まれながらの戦略家」と讃えたそうです。その他には誰がいるかとの問いに、少し考えて、チャーチルと答えたとか。わが日本国の安倍総理は世界の歴史に残る宰相だった…!

確かに、自由主義や法の支配にとって最大の敵である全体主義独裁体制の拡張を平和的に抑止する上で、インド太平洋構想こそが最大の戦略。ルトワック氏も、「米国は中国との対立の最前線には立っていない、現在進行しているのは、『米国主導の海洋同盟と中国との戦い』である」としています。これをもたらしたのは中国の戦略性の欠如だとも…。

この路線を引き継ぐ菅総理がベトナムとインドネシアを最初の外遊先にしたのも「その前に東京でクアッドというインド太平洋戦略を担う4か国の外相がコロナの中でわざわざ東京に集まった。この骨格に必要な壁となるのが、米国か中国かを選ばされるのは迷惑な東南アジアの国々。ここは日本が仲介役として必要不可欠な地域であり、アセアンが乗るかどうかが大きな影響」(松川るい・防衛大臣政務官)という重要な意味がありました。

その反面で、現実の日本の外交をみると、米中デカップリングといわれながらも、実際には米中「二股外交」と指摘されています。松田政策研究所研究員の宇山卓栄氏は「その元凶は日本の経済界にあり」。保守派の間でよくみられるのは、二階幹事長を斬れという議論ですが、「斬ったところで第二第三の二階幹事長が現れるだろう。親中派議員が多いことには背景がある。日中友好を望む二階幹事長ら親中派は財界に支えられている。財界は中国の市場を簡単には捨てられない。日本の政府政権としては簡単に中国切りができない。」

菅総理がインド太平洋構想について、「特定の国を対象としたものではない、インド太平洋版のNATOをつくる考えは全くない」としているのは、「東南アジア諸国が反中に乗れないことを配慮したのはわかるが、ここまではっきりと言わずとも、『適宜適切に』との言い方もあった。中国に気兼ねする配慮を感じざるを得ない」というのが宇山氏の見方です。

●中国に媚びへつらう?日本の経済界
ここで経済界の状況をみてみると、経団連の中西宏明会長は「中国を敵に回したりしては日本は存在し得ない。米国の場合はそれはできるかもしれないが、日本はそうはいかない」、「貿易赤字の問題、技術移転の問題だけに焦点を当てるのはおかしいと思う」と述べたことがありましたが、これが日本の経済界の偽らざる本音でしょう。
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楊海英・静岡大学教授によれば「会談の冒頭、深々と頭を下げる日本の財界人(中西会長)と無表情の李克強首相との会見の様子は、皇帝に謁見する前近代的な『朝貢使節』のようだった」。ちなみに、この中西会長、トランプ大統領がコロナに感染したことについて、「典型的な自業自得だ」と述べましたが、一国の大統領に対してあまりに無礼ではないでしょうか。現在の日本の財界の不見識ぶりを見事に露呈したものと思います。

コロナ禍の中、経団連幹部は「駐在社員や出張者が行けずに困っている」と、中国との往来再開を強く要望し、「中国との関係が断たれれば、日本経済は窒息してしまう」とも。

しかし、日本は中国依存のサプライチェーンを抜本的に見直さなければ、日本企業が米国の制裁対象になりかねない状況にあります。脱中国、中国からの製造業のシフトに日本政府が助成金を出すなどの支援が進んでいますが、これだけでは到底、間に合いません。それどころか、大企業はますます、中国投資を増やしています。

例えばパナソニック。中国での供給能力を高めるため、5G向け電子部品材料を中国で増産の方針、6月には広州市にある工場で増設、投資額は約80億円とも。確かに、経営者としては利潤を追求しなければなりませんから、中国をサプライチェーンから外すことなど簡単にはいきません。企業の現場が政治的正論によっては動かないのが構造的な困難さ。

企業側からはこんな声も…「日本経済はモノを売っている。それで日本経済は強くなっている。我々が中国の富を奪う立場になっている」。しかし、それは逆でしょう。買ってくれているほうにこそ弱みがあります。結果として共同開発などを強いられており、中国にこそ、巨大マーケットを持つ側の強みがあります。

トヨタは今年6月に、中国国有の商用車大手など5社と、燃料電池システムの開発に取り組むと発表しました。日本は燃料電池車(FCV)で覇権を確立しようとしているはずですが、これは事実上、中国にFCV技術を移転するもの。米国による数々の制裁措置に対抗しようとする中国は、戦略的な物資への輸出規制を10月に法制化しました。中国に行って水素技術を開発しても、それで中国から輸出できなくなるとすれば、元も子もない。
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●米国からも中国からもダブルパンチ?日本企業の抱えるリスク
中国企業との共同開発や産学協同の技術開発を見直さなければ、米国ECRA法違反による制裁対象にもなり得ます。これは通常の中国と取引をしていても起こり得ます。

例えば、日本が供給している素子が入った監視カメラがウイグルに使われているとすれば、人権弾圧を助けたとして制裁がある可能性も…。この方面に詳しい(株)アシスト代表取締役の平井宏治氏によれば、「このままずるずると八方美人をやっていると、利敵行為をやった日本企業に対して令和の『東芝機械事件』が起こる。中国共産党や人民解放軍とは近くないようにみえても、米国が調べたらそうだという事例がたくさんある。」
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平井氏は「トランプ政権が続けば、中国に入っている日本企業は米国による制裁への備えをしなければならない」としていますが、バイデン政権になっても、国防権限法は超党派ですでに法制化されたもの。状況は大きくは変わらないようです。
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「日本企業は勘違いしている。中国の市場は確かに大きいが、欧米の市場と同じではない。独裁国家の怖いところは、政府の出方ひとつということ。命令が出たらサプライチェーンは止まってしまう。よく考えて中国からの分散化、希薄化を進めてほしい。不確定要素は増える一方だ。他方で、どこで米国から制裁されるかわからない」(平井氏)。日本企業は米国と中国の両方からダブルパンチを食らわされかねません。

「日本政府はサプライチェーン組み換えへの助成措置に加えて、高すぎる電気代を下げるなどの規制緩和で企業が国内に戻りやすくすべきだ。すぐに全面撤退はできないので、中国事業の希薄化を一年ぐらいかけて徐々に進め、国内に加え、東南アジアなどにも分散化してほしい。サプライチェーンの組み直しで、旗幟鮮明となることを日本には米国から求められている。日本の政権が向いている方向が企業にもみえたほうがよい。政府がリーダーシップをとってリスクを産業界に伝えて、希薄化に向けて旗を振るべきである。」

「米国企業が指定したリストについては、リニューアルして今後も発表していく。」松田政策研究所チャンネルでも、今後、折に触れて平井氏からの情報を発信してまいります。

なお、米中両国の規制の現状については、下記のよりブログ記事をご参照ください。
『動画ろんだん@松田政策研究所㊳~日本の安全保障と機微技術流出規制…中国軍事関連企業と国防七校~』↓

●技術者や学界も、学術会議も…軍民融合の中国に協力する日本人たち

最近有名になったのは中国が2008年に開始した「千人計画」という、技術者をヘッドハンティングする国家プロジェクト。ビジネスの世界だけでなく、学術・研究の分野でも、海外の優秀な研究者、技術者を誘致しています。米国では、この「千人計画」に関連し、知的財産窃取、スパイ容疑での摘発がなされています。

前述の宇山氏によると、これは週刊誌に出た日本のある研究者の告白…「自分を含めて中国に来た若手の研究者は、働けるなら日本にいたいというのが本音です。給料や研究費が高いから中国に行くのではなく、日本に研究者としてのポストがない。だから中国へ行くしかなかったのです」。「5年前に浙江省の『千人計画』に選出された際に1500万円が支給され、5年分の研究室の運営費として5000万円を支給されました」

どれだけ意欲や能力があっても定年を迎えると働く自由を奪われるという、日本の社会主義的な雇用慣行も、本来は脱却すべき「戦後システム」。この虚を突かれたかたちです。

物理学の東京大学名誉教授の告白によると…「現在は北京航空航天大学の教授として、専門のソフトマター物理学を教えています。9年前に北京の理論物理学の研究所に呼ばれて連続講義をした際、知り合った中国の先生から『千人計画』に誘われまして…東大は辞めても名誉教授という肩書しかくれませんでしたが、北京の大学は東大時代と同じポストで、待遇も少し多いくらい用意してくれました。普段は学生相手に講義をしなくてもよいし、…申請書類は准教授が代わりに出してくれました。日本では科研費をどうやって取るのかで皆が汲々としている。そういう意味ではまるで楽園ですね。面倒なことをやらずに学問に没頭できて本当に幸せです」
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研究者は研究費と研究の場が与えられれば、研究に没頭したいもの。研究を追求していきたいと思う気持ちは純粋でしょう。しかし、研究者であると同時に日本国民であるという自覚が必要。宇山氏は「『渇しても盗泉の水を飲まず』、国立大学で税金で禄を食んできた東大教授が、自覚がなさすぎる。」ただ、国立大学の正教授を経験したことがある私からみれば、これも、大学への運営交付金の削減が続き、スタッフ不足で雑用に追われ、研究活動に支障が生じている日本の大学に生じている大問題。その虚を突かれたかたちです。

中国との学術協力を積極的に進めてきた日本学術会議の問題も、こうした視点から厳しくチェックされるべきです。ただ、学問の自由への弾圧だとして、例によってメディアと野党が政権を叩いて煽っているこの問題、そもそも、前述の阿比留氏が指摘するように「テレビに出ている学術会議の学者さんはなんでこんなに威張っているんだ。人事が思うようにいかず文句つけている人に同調する人はいない。自分たちは聖域に置かれて当然との態度は反感を買う。」これが、ごく真っ当で常識的な日本のサイレントマジョリティーの受け止め方だと思いたいところです。

●悪意と有事の想定がない国からの卒業を~それでも中国は旧ソ連とは違う~
いわゆる「機微技術」の世界で、いまどき、軍用と民生は分けられません。日本にも「セキュリティ・クリアランス」が必要。電子データ情報や機微技術は安心できる人だけ担当してもらう。その際、日本は性善説が前提になっているところに一つの問題があります。例えば、情報漏洩事件の大半が内部者の仕業。米国などでは人間性悪説で厳格な監視をしていますが、日本の企業慣行にはなじまないとされます。本来、情報や技術にも色々なレベルがありますので、それに応じて性善説、性悪性を細かく使い分けるしかないでしょう。

法制度も日本では善人を前提にしています。しかし、安全保障上の例外、緊急事態の例外を、土地投資も含め、あちこちに作っていくべきです。悪用された時のダメージを想定し、悪意のときや、事態が悪い結果をもたらすときには規制できる体制の構築が必要です。

基本は諜報機能の強化ですが、国に諜報機関を設置するという形の問題よりも、インテリジェンス能力や分析能力をあらゆる分野で高めることが何よりも大事。日本は悪意と有事の想定がない幸せな国でした。これは戦後の特殊な状況といえます。近年はさまざまな面で複雑系の世の中になり、ここだけやればいいという時代ではなくなりました。産官学すべてがつながっており、専守防衛の制約がある国だからこそ情報収集が他国以上に必要だという意識が各層、各分野に必要です。カルチャーや意識の醸成を急がねばなりません。

ただ、問題をさらに複雑化しているのが、旧ソ連と中国は違うことです。ソ連は西側とは別の体制でしたが、中国はシステム内勢力。国連やWTOなど既存の国際協調体制の中核のなかで勢力を拡大している国です。封じ込められるほど小さくないのもソ連と違う点。

例えば、すでに電気自動車(EV)では中国が世界の生産、輸出拠点となりつつあり、そこにはEVに必要な産業集積が形成、自動車産業の勢力図はかつての日米欧から中国を軸とするものへと移行していく勢いだそうです。ここへの進出で得られる商機を日米欧の産業界が競うとすれば、世界各国が中華秩序に対する朝貢国になりかねない構図が…。

●「反中」と言わないのは実効ある中国包囲網のため
こうした現実を前に、利潤追求の競争を各国間で展開する日米欧の民間企業が中国を切れないなら、中国に代わる経済活動プラットフォームとしてのインド太平洋構想へと、よほどの覚悟をもって取り組まねばならないことになります。

この構想について、菅総理が10月に国会で行った所信表明演説では、安倍前総理のときに2016年にはインド太平洋「戦略」と言っていたのが、18年には「構想」となり、今回は「インド太平洋」と、これも素っ気ない地理の名称に変わったこと。これが実は、本格的に対中包囲網を実行するための布石であることが重要です。石破氏が提唱した「アジア版NATO」を菅総理が反中包囲網になるとして否定したことを保守派は批判しているようですが、とんでもありません。

日本政府が着々と進めている施策について無知なまま、言葉だけが勇ましいのが愛国保守なら、空回りになります。そうならないよう、以下、江崎道朗氏の言葉を借りると…、

 「なぜ菅総理は最初にベトナム、インドネシアだったのか。大統領選でトランプ、バイデンどちらになっても日本は対応できなければならないが、では、なぜトランプが安倍総理を評価したのか。それは、対中国を考えるとインドとアセアンを巻き込む必要があるから。しかし、インドと米国は関係が悪く、アセアンは米国が大嫌い。マレーシアも米国大嫌い。インドネシアも基本的に米国嫌い。ドュテルテも米国嫌い。みんなそうである。」

「とりわけインドはモディ首相。与党はBJP。これはナショナリズムが強く、核武装に踏み切った政権。そのとき、経済制裁を米国から食らった。中国に対抗するためだったのに。そこでナショナリストはみんな反米になった。BJP系のインドにとって米国は信用ならない国。日本に対しては親近感。中国と紛争を抱えていても米国とは組みたくない。」

「マレーシアは通貨危機でやられた。米国の金融資本は嫌。インドネシアはイスラムの国。無神論の中国はいやだが、十字軍は嫌い。ベトナムはベトナム戦争でやられた国。タイ以外は対中包囲網を米国が言っても乗らない。アセアン、インドシナ諸国の状況を日本人は知らない。韓国中国には関心持つが。政治家も突っ込んだ話をこの地域とはしない。」

「米国はやりたくても、できない。インド太平洋は安倍氏のイニシアチブ。彼らを仲間に引き込むことができるのは日本だけ。だから米国は、これに乗るしかなかった。彼らは日本が言うなら乗ってもいいかなとなる。アジア太平洋を味方につけるとき、日本が重要なのはトランプもバイデンも同じ。」

「菅総理はまずポンペオ国務長官との会談で日米同盟を固め、東京で日米豪印の『クアッド』会議、そしてこの両国を訪問…と戦略的な外交。この地域では『力によらず』と述べ、名指しは避けつつ中国の南シナ海進出をもろに批判。中国側は沈黙。これは、米国にとって必要なことをわかっており、やっているという両大統領候補に対するメッセージ。」

「実は、日本が『反中』と言ったとたんに東南アジアは日本と組めなくなる。中国からの報復が怖い。日本と違って彼らは小国。日本は中国に対して結構平気だが、彼らは違う。」

「インドネシアのジョコ大統領は、『インド中国対等外交』。同国では金融とサプライチェーンを華僑が握っており、これは中国に国が牛耳られている状態。これへの対抗としてインドと手を組むという基本政策。中国を批判しない代わりに、インドを巻き込む。日本が『反中』と言ったとたんに、米中対立に巻き込まないでくれ、となる。」

「インドも、中印国境紛争の仲介をトランプが働きかけても、モディは即、拒否した。どことも同盟関係を結ばない国。アジアの覇者は自分だと思っている国。」

「保守派の人たちは反中と言うことのほうが大事だと思っているようだが、反中包囲網と言わずに、実質的にこれら国々を取り込むことが大事。」 

●菅総理のベトナム・インドネシア訪問はクアッド(日米豪印)の起動と一体だった
「菅総理が10月19日に中国をやんわりと批判した同じ日に4つのことが同時に起こっている。いずれも10月19日と20日。」以下、江崎氏が挙げるのは…、

[その1]米国海軍と日本の海上自衛隊と豪州海軍が南シナ海で合同演習。これは菅総理が言っていることを米国と豪州は全面的にバックアップしているとのメッセージ。菅さんは米国と豪州と日本の各国の軍まで連れてきている。菅は口先の男ではない…となる。

[その2]まさにこの日、インド国防相が、日米豪で毎年行っている合同演習に今年はインドも入るとの声明を発出。マラバールというインド洋での合同演習をやる。近年、中国軍がインド洋に来るようになっている。これをけん制する能力はインドにはない。インド海軍の能力構築をやってきたのは日本と豪州。これからはODAという経済支援ではなく、軍事と治安組織、テロ対策でもやりますと、安倍前総理がインドに言っていたもの。

[その3]岸防衛大臣が豪州国防相と会談。今後は豪州海軍も守る。日本の法制で整った集団的自衛権の枠組みを、日米から日米豪へと発展させた。これも10月19日。

[その4]その翌日、これらを受けて、米国のビーガン国務副長官がクアッドに触れて、今後、定例化して公式化すると表明。
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江崎氏によると、これら4つは全部つながっており、菅総理の外遊に合わせて米豪印が一斉に動いているもの。そういう状態の中で対中国の戦略的枠組みができていることを見事に示したとしています。ベトナムから見ても、日本は日本だけで来ているのではなく、この枠組み全体で来ていることになります。日本のメディアはこれらをバラバラに報道していますが、実は、大変大きな話。菅総理は外交音痴…?実際に動いている現実をみたほうがいいでしょう。日本の外務省や防衛省も、インドなどと凄まじい積み重ねをしています。まさにDIME(外交、インテリジェンス、軍事、経済を一体的戦略的に遂行)が起動しているといえるかもしれません。この体制を構築したのも安倍前総理の大きな成果です。

●ついにDIMEを動き出させた日本政府
その事例として、江崎氏は以下の事例を挙げています。それはベトナムの首相に菅総理が話した内容。解決しましょうとした案件が12事項もあるそうです。例えば…、

[1]裁判制度。ベトナムは共産党政権なので裁判が独立しておらず、日本企業が進出してもつかまってしまう危険性。安心してベトナムに進出できるよう。裁判制度を改善。共産党による不法な逮捕や嫌がらせをしない。法の支配を徹底する。

[2]公安。法執行の面でも、日本人をスパイとして取り締まったり、いやがらせをしたりしないよう、両国の警察公安が連携する。

つまり、中国と立ち向かう国だからベトナムは日本の味方だというような単純な見方はしていないということです。一党独裁の改革をしないと、良い関係は難しいということを押さえる。ベトナムとしても中国に対抗するためには、日本と、そのバックにいる米豪が必要です。それを得たいなら、裁判制度と警察を改革せよというのが趣旨。これまでの日本の外交のような、なんでもいいからお金を渡すような愚かなことをしない…。

[3]港湾。サプライチェーンの問題。日本の生産拠点を中国から日本だけでなくベトナムなどにも移していく。問題になるのは、一党独裁ゆえに規制が多いこと。港の整備だけでなく、物流インフラも整備してあげます、それなくば、生産拠点を日本から移せない。

[4]工業団地や発電所。それらの整備に日本は協力。日本企業が拠点を移せるような環境整備に協力するのだから、いやがらせはやめよ。ベトナムの経済も大きくなる。WinWin。

[5]防衛装備品。これは軍への支援。ベトナムは全てロシア製で、米国製を買わない。装備品とは、それを扱うノウハウと一体。軍事顧問団として日本がベトナムに協力する。
以上は全て理にかなっているといえます。ここまでやっても、菅さんは反中ではない?
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安倍前総理のもとで国家安全保障会議(NSC)と内閣国家安全保障局(NSS)、そしてNSSには経済班が設置されましたが、上記に関するシナリオを作っているのは経済班。今回関連しているのは外務省以外に、法務省、警察庁、国交省、経産省、防衛省…各省庁霞が関挙げてベトナムの取り込みに一体的に動いている姿が明確です。

反中か親中かなどと言っているうちに、日本政府はもうすでに先を行っています。それを踏まえずしてリアルな議論はできないでしょう。第二次大戦後、戦略性をすっかり喪失していた日本が、ここまで来た…。今後、習近平の訪日の是非を含め、中国に関しては色々な議論が出てくると思いますが、日本政府が冷静に「不言実行」で進んでいることを、頭のどこかに置いておくべきだと思います。

●開かれた繁栄の魅力と毅然たる態度~中国をして日本にすり寄らしめる高等戦略を~
このインド太平洋構想で大事なのは、我々とは異なるやり方や価値を提示している中国に対して、中国とは異なるやり方や価値を、この地域で提示し続けることでしょう。この開かれた繁栄する地域で、これをネットワークとして広げ、中国の悪影響を相殺する魅力を創る営みで、我々は自転車をこぎ続ける…。

中国も永遠に変わらないわけではない、習近平以外は違うかもしれないと考えるのはあまりに楽観的かもしれませんが、それでも我々はこの広大な地域に魅力を創出し続ける…。

その中で日本の役割は増えていくでしょう。日本はすでに「TPP11」の盟主。加えて、日・EUのEPA、米国とは日米貿易協定と、連帯の領域を大きく拡大してきたのも安倍政権の功績です。ここに加わるのがRCEP。日中韓+東南アジア+豪州NZの15か国での妥結は、インドが抜けたことで中国の影響力拡大が懸念されますが、以上の世界のメガ経済圏のいずれにも属する国は世界で日本だけです。これは、中国も含めた世界秩序の形成者となり得るポジションを日本は得ていることを意味すると解釈すべきでしょう。
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EUから離脱する英国だけでなく、今般のG20では習近平も「TPP11」への参加希望を表明しました。これは中国による自由主義圏の分断工作だとも、国営企業など体制の根幹と矛盾する中国の参加は無理だとも言われますが、開かれた繁栄する地域が有する磁力やインフルエンスを示すものであることは間違いありません。日本は自由化の水準の低いRCEPにおいても、体制が壁となっている中国に対しても、世界で最も完成度の高いルールや自由化度を備えた「TPP11」の盟主としての指導力を発揮できる位置にいます。

日本は米中両大国の狭間にあるとされてきましたが、米国とは同盟国であっても、すぐそばの近隣関係にある中国との安定的な関係が日本の安定にとって死活的であるのは疑いようもない事実。安倍政権下で良好な関係になったのはアセットであるとすべきか、「二股外交」と批判すべきかは評価が分かれますが、その判断のメルクマールは、良好な関係の構築の仕方にあると考えるべきでしょう。日本が中国にすり寄っての良い関係なのか、中国をして日本にすり寄らしめての良い関係なのか、そこには決定的な違いがあるはずです。

中国は力のない国は相手にしません。日米同盟が強固で、インド太平洋戦略や「TPP11」を主宰している国、そういう日本と仲良くするのは中国にとっても利益。「中国には、日本とうまくやったほうがいいと、あと30年ぐらい思わせ続けるのがよい」(松川るい氏)。
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日本としては、中国が国際社会のなかで建設的な存在であってほしいということを語り続け、対話し続ける必要がありますが、その前提は、「安全保障ではビタ一文、譲らない。その能力と意思を備える。日本に手出しをしないほうがよいと思わせるのが安全保障の基本。」(同)外交の背景には力が欠かせません。毅然たる態度とともに、より高いレベルでは、建設的な国になれと言い続ける。

こうした複眼的な「ツートラック」のスタンスを堅持しつつ、機微技術に関しては米国との協調のもと、インテリジェンスと規制を徹底する一方で、民間企業にとっての「インド太平洋」軸の求心力を高め続けることが、日本の路線だと整理できるのではないでしょうか。バイデンの米国がこの路線に対して梯子を外すことだけはないことを祈るものです。
以上、ここで引用した論者たちの発言については、以下の番組をご参照ください。

●阿比留氏『安倍晋三が取り戻した日本、そしてメディアの役割とは?』ゲスト:産経新聞論説委員 阿比留瑠比氏

●宇山卓栄氏『経団連と中国、そして2F氏ら親中派議員、アメリカ大統領選後の日本』ゲスト:著作家 宇山卓栄氏

●江崎道朗氏『菅首相初外遊は東南アジア これは極めて戦略的な外交だ!』ゲスト:評論家 江崎道朗氏

●松川るい氏『米国混迷、今こそ”リアル”な安全保障政策が必要だ!』ゲスト:防衛大臣政務官兼内閣府大臣政務官 自由民主党参議院議員 松川るい氏
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Author:matsuda-manabu
松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。

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