FC2ブログ

記事一覧

【その1】どうなる、財政再建目標~先送りされた楽観シナリオと不都合な真実~松田学の論点

今通常国会で審議されている来年度予算は、財政当局の努力もあって、足元では財政状況が少しずつ改善していることを示しています。社会保障費の増大を毎年度、5,000億円内に抑える努力と、税収がバブル時以来の史上3番目の水準まで回復していることなどから、国債発行額が減少、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の赤字も縮小しています。

2019年に予定通り消費税率が引き上げられれば、「歳出が経済成長による税収増とほぼ見合った伸びになるところまで歳出構造が到達した」と財政当局は説明しています。

しかし、団塊の世代が全員、75歳以上の後期高齢者世代に入る「2025年問題」まで視野に入れれば、年5,000億円に社会保障費の伸びを抑えるのは現状では困難とされます。

もう一つ、何と言っても大きな問題は、現在のゼロ%程度の異常な低金利を演出している異次元緩和政策が終わり、金利が正常化した際には、国債の利払い費が爆発的に増えることです。900兆円近くの普通国債残高に単純に利率をかけても、国債の借換えが進むにつれて、単純計算で利払費は、1%の金利上昇で9兆円、2%の上昇で18兆円も増えます。それは、財政再建努力も無にしてしまう規模のインパクトです。

しかし、政府が今回改定した2027年度までの試算においても、金利上昇の想定の先延ばしなどによって、この不都合な真実は依然として見えにくいままになっています。今回は、この問題を少し掘り下げ、解決の道はあるのか考えてみます。

●消費税の使途変更

 安倍政権が昨年10月の総選挙で約束したのが、2019年の消費税率10%への引上げで増える消費税収の使途の一部を、教育無償化を含めた「全世代型社会保障」への歳出増に充てるという「使途変更」でした。選挙後、政府はこれを「人づくり革命」パッケージにまとめ、早速、それに向けた予算措置を来年度予算でも講じていますが、これが予算の形で本格化するのは、2019年10月の消費増税後の2020年度予算からです。

この政策パッケージの内容は下図のとおりですが、柱は、①幼児教育の無償化、②待機児童の解消、③保育士・介護職員の処遇改善、④高等教育の無償化の4つで、毎年度の予算としては2兆円規模となります。

うち3,000億円は経済界の協力が得られ、本パッケージで増える財政支出は1.7兆円、これが消費税収の使途変更で賄われるという姿になります。(私立高校の授業料実質無償化は公明党が主張していますが、まだ、このパッケージには入っていません。)

消費税の使途変更

もともと、消費税率を5%から10%へと二段階で引き上げることを決めた「社会保障と税の一体改革」で想定されていたのは、それによって得られる消費税収の増加分のうち概ね8割を従来の社会保障経費(年金、医療、介護、少子化対策の「社会保障四経費」)の財源に、残り2割を、これら経費の増加(歳出増)に充てることでした。

今回の「使途変更」とは、歳出増に充てる分を2割から5割へと増やし、それによって上記の政策パッケージの財源1.7兆円を確保するものです。(上図では消費税率2%引上げで国と地方の消費税収が5.4兆円増えるとされていることを基にして、歳出増に2.7兆円、従来の社会保障に2.7兆円という数字を示していますが、これは10%への引上げ時に予定されている消費税軽減税率の導入による税収減の影響を単純化のため捨象した数字です。)

このように歳出増に充てる部分を増やすことで、「消費増税分のうち借金返済に回す部分が減る」という言い方が、よくなされますが、この表現は間違いです。これでは、消費税収は全額、社会保障に充てているという従来の説明がウソだったことになります。

そうではなく、これまで消費税収の全額を充てても、それで賄われていた社会保障の公費は必要額の半分未満という状況でした。残りは赤字国債の発行(次世代への課税)で賄ってきたため、消費増税によって従来の社会保障の財源のうち消費税によって賄われる部分が増えることで、その分、新規赤字国債の発行が減ることになります。

つまり、消費税収は全額、社会保障に充てられますが、その増税によって、新たに歳出を増やす分以外の税収増分が赤字国債にとって代わることになるため、結果として財政再建効果が出る、この財政再建に寄与する分が減少する、というのが正しい説明です。

●改定された政府試算

いずれにせよ、財政状態は足元ではよくなったと言っても、今回の消費税の「使途変更」によって財政のベースラインは1.7兆円悪化することになります。結果として、これまで政府が掲げてきた2020年度プライマリーバランス達成という目標の実現は困難になりました。安倍政権は、この目標の達成年次を先延ばしし、2018年6月の「骨太の方針」で目標の再設定を示すとしています。

もともと、2020年度達成目標は、現実には実現困難でした。下図をご覧ください。これは、消費税の使途変更を決める前の2017年7月に政府が発表していた「中長期の経済財政に関する試算」(内閣府)です。この試算は半年ごとに改定されています。このときの数字では、2019年10月に予定通り消費税率を10%にまで引き上げても、そしてアベノミクスが大成功して経済成長率が名目で4%近くまで高まる「経済再生シナリオ」が実現した場合でも、2020年度には8.2兆円ものプライマリーバランスの赤字が残ることになっていました。

目標達成のためには、これだけのオーダーの数字での歳出削減が可能なのは社会保障費ぐらいですから、年金支給額の削減か、医療や介護や保育料などの自己負担分を引き上げるしかありません。これらも国民負担の増加ですから、8.2兆円もさらなる負担増を2020年度までに国民に求めるしかなく、現実的ではありませんでした。

<改定前の試算、2020年度>

01

そうは言っても、財政再建目標の旗を何の理由もなく降ろせば、経済運営の失敗と言われかねません。社会保障を若年世代も含めた「全世代型」にするというのは、目標先送りの格好の大義名分になったといえるでしょう。政府与党にとっては、総選挙で若年世代の票を取り込む必要もありました。

その結果、半年後の2018年1月23日に公表された今回の改定試算は、どうなったでしょうか。下図は、改定で示された2020年度の姿です。3.9%と高すぎた名目経済成長率は3.1%へと、より現実的な想定に引き下げられ、前述の消費税の「使途変更」で財政のベースラインが悪化したことにより、プライマリーバランス赤字は8.2兆円から10.8兆円へと2.6兆円、拡大しています。

<改定後の試算、2020年度>

02

して、下図のとおり、その後も高い経済成長を続けることで、2027年度になってようやく、プライマリーバランスの黒字が達成されます。この黒字達成は前回の試算では2025年度でしたから、2年の延期です。今から10年も先です。プライマリーバランス目標達成は、2020~2027年度の間のいずれかの年度に設定されるでしょう。それも2年の延期でしょうか…?

<改定後の試算、2027年度>

03

・・・以下、<その2>に続く <その2>その2では、この試算についてさらに論じ、日本の財政が直面する課題を追求します。
松田まなぶのビデオレター、第79回は「来年度予算案をプライマリーバランスと金利で見る」

チャンネル桜2月6日放映。
こちら↓をご覧ください。

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

matsuda-manabu

Author:matsuda-manabu
松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。