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1. 日本の自主防衛
保守派の議論ではよくされるのですが、日本の自主防衛に関して、日本国民のこの現実を見ようとしない態度、世論誘導の堅牢なマスコミへの対応、70年以上続いた我が国民への洗脳工作、学校現場の左翼偏向教育、などはどのようにされるのですか? そもそもアメリカ合衆国自身が、日本の自主防衛を果たして許したりするものなんですか? 議論を持ち出すだけで跳ね返すような感じがします。
松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について 総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。
北朝鮮によるミサイル発射が相次いでいます。
4月の米中首脳会談で米国のトランプ大統領は、中国の習近平主席との間で、北朝鮮対策への中国の協力を引き出すに際し、貿易赤字問題をディールの材料として使いました。しかし、中国にとっては朝鮮半島での同国の影響力の観点から本来、現状維持が望ましいなど、中国が果たして本当に協力するか未知数だとされます。
●日本に迫られる自主防衛力の増強
現状が続いて与えられた時間の間にもし、北朝鮮がICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発に成功し、米国本土が核攻撃の脅威にさらされるようになったら、日本にとって米国による「核の傘」が事実上、機能しなくなるという危機的状況が到来するかもしれません。
ましてや米国はいま、「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領です。
ある日本の北朝鮮の専門家が、こんな話をしていました。
…北朝鮮の核戦略は、朝米の対等の安全保障協定の締結にある。核ミサイルで脅せば、米国は世界の警察官をやめ、半島から撤退する。その時、お互いに不可侵の関係を作るというのが、金日成以来、親子3代にわたる戦略であり、金正恩は今、その戦略を完成させようとしている…と。
ちょうど今、韓国では「左派」の親北政権が誕生しています。韓国では左派とは民族主義を指すそうです。北主導の朝鮮半島統一という事態になったとき、日本はどうするのか。
このシナリオの実現性がどの程度かは分かりませんが、我々として想定しておくべきリスクではあるでしょう。米国による「核の傘」が消滅する可能性を視野に入れれば、日本は自ら、北朝鮮に対する独自の抑止力を強化しなければならないことになります。
ミサイルの軌道については、発射時点のブースト・フェイズのあと、宇宙空間を飛ぶミッドコース・フェイズに入り、日本の場合、これに対する迎撃はイージス艦のSM-3で対処することになっています。しかし、5月14日に高いロフトで打ち上げ、2,000キロの高度を達したとされる北朝鮮のミサイルの状況をみると、こうした迎撃が届かない可能性があると指摘されています。
これで撃ち落とせなかったミサイルの軌道は、地上に向けて落下するターミナル・フェーズに入りますが、日本の場合、これに対しては地上からのPAC-3(パトリオット)で迎撃することになっています。しかし、高い高度からの落下は猛烈なスピードとなり、これも簡単には撃ち落とせない可能性が指摘されています。
結局、日本は、1,500~2,000キロを射程に入れた巡航ミサイルをはじめ、航空母艦、空対地ミサイル、早期警戒衛星など、通常兵器による敵基地攻撃能力を強化することを迫られるというのが、前述の専門家の意見でした。
この場合、ブースト・フェイズでミサイルを叩くという敵基地攻撃が可能かどうかがポイントになりますが、これについては1956年の当時の船田防衛庁長官の「座して死を待つ選択肢はない」という国会答弁があり、必ずしも憲法違反とはいえないようです。
ただ、攻撃されたら巡航ミサイルで反撃するという意味での事前的な抑止力こそが本物の抑止力ですが、それを想定した場合、専守防衛との関係でどうなるか、色々な議論を呼ぶでしょう。難しい問題がありそうです。
いずれにしても、日本の自主防衛力増強が迫られているのは事実です。
●対応力を失っている日本の財政
では、先進国最悪と言われる日本の財政は、防衛力増強への対応力があるのでしょうか。
近年、日本の防衛費は微増を続けています。今年度(2017年度)予算では、防衛関係費は+1.4%増額の5.1兆円で、その対GDP比は0.926%です。
日本は長年、対GDP比1%枠を遵守してきましたが、トランプ大統領は各国に対し、標準は2%だとして、軍事費の増大を求めています。ちなみに、米国の軍事費の対GDP比は4.3%(世界1位は北朝鮮の23.3%、ロシアは3.8%で第20位、中国は2.0%で第68位、米国は第15位で、日本の約1%との数字は第136位)だそうです。
もし日本が2%へとなると、現在の5.1兆円とほぼ同じ金額、消費税率にして2%程度の増税分に相当する額を上乗せしなければなりません。
しかし、専守防衛の日本の場合、そもそも防衛力のスペックが自国防衛の範囲内でしか組み立てられていないため、現行憲法を前提にすれば、2%に達しなくても国際標準に足りないということにはならないとは思います。
ただ、今後、1%を超えて大幅に防衛費を増やせる財政状況にあるかということになりますと、いずれ行われる消費増税も全て社会保障向けですから、別途の増税策を講じない限り、国債発行の増発ということになります。
国債増発ということでいえば、最近では「教育国債」も議論になっていますが、少なくとも現行の2020年度プライマリーバランスを前提にした財政運営を根本から見直さないと、採れない道でしょう。
そもそも国債の消化は、個人、非金融法人、政府併せて3,500兆円もの金融資産のポートフォリオ(資産選択)の中で行われるものであり、日本の現状は、国内でマネーを運用しきれずに世界最大の対外純資産国の地位を続けているのですから、国債増発に量的な制約があるとは考えにくい面があります。
問題は、国債の大半が高齢化とともに膨らむ社会保障費を賄う赤字国債になっていることにあります。それでは将来の日本経済の生産性上昇に寄与する借金(資産運用)ということにはならず、ポートフォリオの質のほうが問題です。
ちなみに、今年度末の普通国債(将来の税負担で償還される長期国債)の発行残高の見込みが約865兆円、うち、インフラ整備など将来に資産を残す国債であることから財政法第4条で発行が許されている建設国債(4条公債)の残高は274兆円、将来にツケだけを残すことから財政法で本来禁じられている赤字国債(特例公債)の残高は584兆円です。
この社会保障費の増大(赤字国債の増大)が日本の財政の対応力を大きく損なってきました。今年度予算でも、一般会計総額の97.5兆円のうち、社会保障費は32.5兆円と、全体の3分の1を占めるに至っています。
OECD加盟30数カ国で国際比較をすると、社会保障費の対GDP比の大きさでは日本は中位くらいまで順位が上昇してきましたが、社会保障費以外の財政支出の対GDP比は、いまやビリまで順位が下がっています。
つまり、日本の財政は先進国で最も、おカネがない政府の様相を呈しています。これは、社会保障の財源が不足し、そこに財源が奪われている結果、他の支出に回せるおカネが圧迫されて十分なことができないでいる財政の姿を示すものです。
●必要なのは社会保障での収支相償
ですから、社会保障が他の経費を圧迫しないよう、毎年増える一方の社会保障の世界にあっては、その中で自ら財源的に収支相償で完結してもらわないとならないはずです。
そこで、その使途が全額、社会保障の財源に充てられる消費税の増税によって、財政が社会保障以外のニーズきちんと応えられるようにすることが必要だというのが、消費税率引上げの大きな理由の一つです。
ただ、図にまとめたように、「社会保障と税の一体改革」で3党合意がなされた、消費税率2段階引上げについては、安倍政権は第2段階目の8%から10%への引上げを延期してきました。一応、2019年10月には実施されることにはなっていますが、それも先送りされる可能性が指摘されています。
他方で政府は、2020年度プライマリーバランス達成を目標に掲げていますが、予定通り2019年に消費税率の引上げをしたとしても、そして日本経済がアベノミクスの効果として考えられる最大の理想的な成長率で経済成長を遂げていくとしても、その目標達成には8.3兆円も不足していることを政府の試算は示しています。
このギャップは、消費増税以外のさらなる国民負担増(社会保障費の削減など)で埋めていくことが、目標達成のためには必要だということになります。
しかし、だからと言って、消費増税の先送りが間違いだとまでは言えません。財政運営の基本や前提は経済成長ですから、それが大きく損なわれる懸念がある増税の場合、財政にとっても元も子もない結果になります。
そこは高度な政治的判断の領域ですが、大事なのは、今後長期にわたって日本の財政が持続可能になり、様々なニーズに対して対応力ある強い財政を実現できるのかどうかです。
ちなみに、安倍政権は2025年度にはプライマリーバランスが黒字になり、公債等(政府部門の借金)の残高の対GDP比が低下を続ける財政の姿を描いています。
このことの意味合いについては機会を改めて論じます。
松田まなぶのビデオレター、第62回は「核の破れ傘、財政からの危機管理をどうするか?」。チャンネル桜5月18日放映。