永久国債で政府の借金を消滅させる道はあるのか~日銀の金融政策との関係~松田まなぶビデオレター
- 2016/09/11
- 13:06
永久国債で政府の借金を消滅させる道はあるのか~日銀の金融政策との関係~松田まなぶビデオレター
●異次元緩和による財政再建
日本の財政は先進国最悪ですが、累増する巨額の国債を消滅させるのは理屈の上では簡単です。それはインフレでもなく債務不履行でもありません。
いま、日銀は異次元緩和で市場から国債を「爆買い」しており、日銀が保有する国債は約400兆円にまで膨れ上がるに至っています。
これまでもこのブログで論じてきたように、政府と日銀を連結させた「統合政府」ベースでみると、日銀が国債を保有すれば、その分、政府の負債が日銀の政府に対する債権となって相殺されてしまいます。そして、その分、日銀の(負債)、つまりマネタリーベース(日銀当座預金)が拡大します。
政府の借金がマネーに変換されるわけです。

また、政府が日銀の保有国債について日銀に支払う国債の利払い費は、日銀納付金の形で政府に「行って来い」で戻ってきます。「通貨発行益」で利払い費削減が削減されるわけです。
以上がアベノミクスによる財政再建効果です。

しかし、異次元緩和が「出口」を迎えるなど、日銀が保有国債を減らすことになると、この財政再建効果は元に戻ってしまいます。
そうであれば、日銀が保有する国債を、満期が来るたびに、元本の返済が不要な永久国債に乗り換えて、日銀が半永久的に保有し続ければ、その分、国債は永久に消滅することになります。アベノミクスによる財政再建効果は永久に確定します。
これで政府の債務は日銀に封じ込められて、完全に処理されます。このオペレーションで、その対象となった国債は世の中から消えます。究極の措置といえます。
●金融政策の自由度を制約してしまう
しかし、最大の問題は、このオペレーションそのものが、国債を日銀当座預金(マネー)へと姿を変えさせるものですので、この増えたマネーが永久に減らないことになるということです。
異次元緩和で拡大しているマネタリーベースとは、日銀当座預金です。国債の保有額に対応して、銀行が日銀に持つ当座預金が積み上がっているわけですが、日銀としては、これをいずれ減らすことができるということを前提に、いまの国債爆買い政策を実施しているはずです。
もし、減らすことができないとなると、いまの異次元緩和政策で拡大したマネタリーベースは、後述の「ポートフォリオ・リバランス効果」を発揮し続けることになり、市中マネー(マネーストック、マネーサプライ)の拡大が止まらなくなると懸念するのが、日銀当局の健全な良識というものでしょう。
インフレを抑制できなくなるという心配です。

しかし、では「出口」で実際に、日銀が保有する国債を市中に売却することになるのかというと、それによって金利が急騰し、国債価格の暴落が起き、金融市場にも経済全体にも、利払い負担が急増する財政にも、大きな弊害をもたらす懸念があります。
06年に日銀は金融引き締めに転換し、国債を市中に売却しましたが、それがその後のリーマンショックのときに、日本が先進国最大のGDPの落ち込みを示すことにつながったという批判があります。
そのときの反省もあり、出口でも国債売却は、そう簡単にはできないかもしれません。
そこで、もう一つ、出口でのよりスムーズで緩やかなマネタリーベース縮小ということで、保有国債の売却ではなく、保有国債のうち満期が到来する分について、それを補充することをやめるということが考えられます。
いま、日銀は毎年、市中からグロスで120兆円の国債を買うことで、満期が来る国債40兆円を補充し、ネットで80兆円、国債保有額を増やしています。
この40兆円の補充をやめることから出口戦略を開始することが考えられますし、米国FRBも、そうしています。
満期到来国債の補充をしなければ、その分、日銀当座預金の減少に寄与します。政府は満期国債の償還の財源として借換債を市中で発行しますので、日銀当座預金から日銀政府口座への支払いが行われるからです。

しかし、日銀が保有する国債が永久国債の永久保有だとすると、これも不可能になります。
●本当にマネタリーベースの縮小が必要になるのか?
ただ、日銀が出口を迎えて以降、本当にマネタリーベースを縮小しなければならないのかというと、必ずしもそうとは言い切れないかもしれません。

第一に、よく、マネタリーベースと市中マネーに関係について、市中マネーの量はマネタリーベースの量の一定の倍数の値に決まる、この倍数を「信用乗数」というという理論が聞かれます。式で書くと、
M(市中マネー)=m(信用乗数)×H(マネタリーベース)
となりますが、実は、mが安定しているわけではありません。
マネタリーベースが大きくなると、mの値も小さくなります。
ですから、経済が活発になって、信用創造(銀行による市中への貸出など)も活発になると、例えば、過去のトレンドでmが7だとすると、異次元緩和で膨らんだマネタリーベースの7倍まで市中マネーが増えて、インフレが制御できなくなる、とは必ずしも言えないと思います。
この議論は、民間に莫大な資金需要があって、銀行が預金準備率による制約ギリギリのところで融資拡大を続けるインフレパラダイムの時代の議論ではないでしょうか。
また、異次元緩和とはポートフォリオ・リバランス効果を期待しているものであって、銀行が日銀当座預金を取り崩して、それを原資にして貸付などを増やすという関係にはありません。
ですから、400~500兆円に膨らんでいる日銀当座預金が市中に出ていくというものでもありません。
第二に、民間銀行とて、かつてほど国債を保有したいとは思わなくなっている可能性があります。
先般、東京三菱UFJ銀行が、財務省に対して、国債発行市場で一定量の国債購入を引き受けることを約束している「国債プライマリーディーラー」という資格を返上しました。
いままでは、国債は国が元本保証する「信用リスクゼロ」の金融商品として、バーゼル規制上、自己資本比率の分母(資産)に算入しなくて良い扱いでしたし、不良債権処理に懲りた銀行は民間への貸し付けでリスクをとるよりも、国債への運用を選好してきました。
最近では、異次元緩和のもとでの「日銀トレード」で日銀が国債を買ってくれますから、民間金融機関も喜んで国債を買っています。
しかし、いま、新バーゼル規制として導入が予定されているのが、「金利変動リスク」を自己資本比率の計算に入れるということです。
国債もマイナス金利となっている状況では、金利変動リスクを考慮に入れざるを得ません。
銀行の国債保有にもBIS規制上の制約がかかるようになりますし、銀行にとっても、あまりに多額の国債保有はリスクだとの認識が強まっています。
ですから、出口を迎えて、日銀が異次元緩和前の水準まで銀行に国債を売り戻そうとしても、そこまで銀行は国債を買い戻そうとはしないかも知れませんし、それが望ましいともいえないようにも思われます。
●保有国債の額を維持しても金融引き締めをする手段はある?
ただ、マネタリーベースを縮小しなくても、金融引締め政策の手段は他にもあります。
第一に、日銀当座預金に付利をする、つまり、金利をつけることです。
基本的に日銀当座預金は、預金者からの現金引き出し要請に銀行が応えられるよう、民間銀行の預金の一定比率(預金準備率)を日銀に預託しなさいという準備預金制度が核になっています。この準備預金の金利はゼロです。
いま、量的緩和と呼ばれる金融政策で増えてきた日銀当座預金とは、この準備預金の額を上回る「超過準備」です。
その部分の金利は、本年2月までは0.1%でしたが、それ以降、新規に積まれる日銀当座預金の部分についてマイナス0.1%としたのが、「マイナス金利」政策です。
これは何も、日銀におカネを積むより市中への貸付におカネを回せ、と、銀行に慫慂する政策ではありません。そんなことをすると銀行は日銀に国債を売却できなくなります。日銀に国債を売った代金は日銀当座預金に自動的に積まれるからです。
それは銀行の運用の財源として取り崩される性格のものではありません。
そうではなく、日銀への国債売却で銀行が巨額に積んだ日銀当座預金の金利が、上記のようにほとんど金利収入を生まない、一部はマイナスだということになると、銀行はもっと金利の高い貸し付けなど市中への運用を増やして、銀行全体としての資産収益率を維持しようとする。
異次元緩和で期待されているのは、こうした「ポートフォリオ・リバランス」効果です。
もし、日銀当座預金に「付利」をして、その金利を引き上げれば、市中運用に比べた日銀当座預金の「不利」な度合いが相対的に低下し、このポートフォリオ・リバランス効果も抑制されることになります。
ただ、日銀の側では、保有国債の見合いの負債である日銀当座預金に金利コストがかかるようになりますから、その分、日銀の利益が減って、国庫納付金が減るという副作用があります。
政府としては、日銀に支払った国債金利の全額ではなく、それに対応する日銀当座預金の金利分を差し引いた金額だけ、利払い費が節減できるということになります。
第二に、日銀が売出手形オペをすることです。この購入代金分、日銀当座預金は減少し、日銀の負債構成は当座預金から手形へとシフトします。
ただ、手形の金利分だけ日銀には金利負担が発生します。これもコストがかかります。
第三に、預金準備率の引上げです。
本年8月末時点で日銀当座預金は約300兆円ですが、これと、現状の民間銀行の預金残高との比率をもって準備預金率だと設定すれば、銀行が現状以上に信用拡大(預金の増大)をすることが抑制されます。
現行法のもとでは、日銀当座預金200兆円程度に対応する水準まで預金準備率を引き上げることは可能なようです。
ただ、銀行にとっては、金利を生まない日銀当座預金に多額の運用資産が張り付くことによる機会費用を挽回する道としての市中運用拡大の道が塞がれてしまうので、預金金利を下げたり、貸付金利を上げるなど、ユーザーにコストを転嫁する恐れがあります。
このように、日銀当座預金を縮小しなくても金融引き締めの手段はありますが、いずれもそれなりのコストが発生しますので、これらだけに頼るわけにもいかないようです。。
●永久国債オペができる範囲はあるのではないか。
以上を踏まえれば、次のことはいえると思います。
つまり、日銀が「出口」以降のいずれかの時点で金融引締めのために保有国債を減らして日銀当座預金を縮小させる必要に迫られることがあるとしても、保有国債をゼロにすることは考えられないということです。
本年8月末時点で約400兆円(397兆円)まで膨らんだ保有国債は、異次元緩和政策を始める直前の2013年3月末は125兆円でした。異次元緩和の3年半で271兆円増えたのですが、それ以前も100兆円を上回る国債を日銀は保有していたわけです。
日銀の金融政策の自由度を制約せずに、先の永久国債オペが可能な範囲は一定程度、ありそうです。
次回以降のビデオレターで、この論点を議論していきます。
松田まなぶのビデオレター、第44回は「財政再建と金融引き締め、永久国債の出口戦略とは?」チャンネル桜、8月30日放映。
●異次元緩和による財政再建
日本の財政は先進国最悪ですが、累増する巨額の国債を消滅させるのは理屈の上では簡単です。それはインフレでもなく債務不履行でもありません。
いま、日銀は異次元緩和で市場から国債を「爆買い」しており、日銀が保有する国債は約400兆円にまで膨れ上がるに至っています。
これまでもこのブログで論じてきたように、政府と日銀を連結させた「統合政府」ベースでみると、日銀が国債を保有すれば、その分、政府の負債が日銀の政府に対する債権となって相殺されてしまいます。そして、その分、日銀の(負債)、つまりマネタリーベース(日銀当座預金)が拡大します。
政府の借金がマネーに変換されるわけです。

また、政府が日銀の保有国債について日銀に支払う国債の利払い費は、日銀納付金の形で政府に「行って来い」で戻ってきます。「通貨発行益」で利払い費削減が削減されるわけです。
以上がアベノミクスによる財政再建効果です。

しかし、異次元緩和が「出口」を迎えるなど、日銀が保有国債を減らすことになると、この財政再建効果は元に戻ってしまいます。
そうであれば、日銀が保有する国債を、満期が来るたびに、元本の返済が不要な永久国債に乗り換えて、日銀が半永久的に保有し続ければ、その分、国債は永久に消滅することになります。アベノミクスによる財政再建効果は永久に確定します。
これで政府の債務は日銀に封じ込められて、完全に処理されます。このオペレーションで、その対象となった国債は世の中から消えます。究極の措置といえます。
●金融政策の自由度を制約してしまう
しかし、最大の問題は、このオペレーションそのものが、国債を日銀当座預金(マネー)へと姿を変えさせるものですので、この増えたマネーが永久に減らないことになるということです。
異次元緩和で拡大しているマネタリーベースとは、日銀当座預金です。国債の保有額に対応して、銀行が日銀に持つ当座預金が積み上がっているわけですが、日銀としては、これをいずれ減らすことができるということを前提に、いまの国債爆買い政策を実施しているはずです。
もし、減らすことができないとなると、いまの異次元緩和政策で拡大したマネタリーベースは、後述の「ポートフォリオ・リバランス効果」を発揮し続けることになり、市中マネー(マネーストック、マネーサプライ)の拡大が止まらなくなると懸念するのが、日銀当局の健全な良識というものでしょう。
インフレを抑制できなくなるという心配です。

しかし、では「出口」で実際に、日銀が保有する国債を市中に売却することになるのかというと、それによって金利が急騰し、国債価格の暴落が起き、金融市場にも経済全体にも、利払い負担が急増する財政にも、大きな弊害をもたらす懸念があります。
06年に日銀は金融引き締めに転換し、国債を市中に売却しましたが、それがその後のリーマンショックのときに、日本が先進国最大のGDPの落ち込みを示すことにつながったという批判があります。
そのときの反省もあり、出口でも国債売却は、そう簡単にはできないかもしれません。
そこで、もう一つ、出口でのよりスムーズで緩やかなマネタリーベース縮小ということで、保有国債の売却ではなく、保有国債のうち満期が到来する分について、それを補充することをやめるということが考えられます。
いま、日銀は毎年、市中からグロスで120兆円の国債を買うことで、満期が来る国債40兆円を補充し、ネットで80兆円、国債保有額を増やしています。
この40兆円の補充をやめることから出口戦略を開始することが考えられますし、米国FRBも、そうしています。
満期到来国債の補充をしなければ、その分、日銀当座預金の減少に寄与します。政府は満期国債の償還の財源として借換債を市中で発行しますので、日銀当座預金から日銀政府口座への支払いが行われるからです。

しかし、日銀が保有する国債が永久国債の永久保有だとすると、これも不可能になります。
●本当にマネタリーベースの縮小が必要になるのか?
ただ、日銀が出口を迎えて以降、本当にマネタリーベースを縮小しなければならないのかというと、必ずしもそうとは言い切れないかもしれません。

第一に、よく、マネタリーベースと市中マネーに関係について、市中マネーの量はマネタリーベースの量の一定の倍数の値に決まる、この倍数を「信用乗数」というという理論が聞かれます。式で書くと、
M(市中マネー)=m(信用乗数)×H(マネタリーベース)
となりますが、実は、mが安定しているわけではありません。
マネタリーベースが大きくなると、mの値も小さくなります。
ですから、経済が活発になって、信用創造(銀行による市中への貸出など)も活発になると、例えば、過去のトレンドでmが7だとすると、異次元緩和で膨らんだマネタリーベースの7倍まで市中マネーが増えて、インフレが制御できなくなる、とは必ずしも言えないと思います。
この議論は、民間に莫大な資金需要があって、銀行が預金準備率による制約ギリギリのところで融資拡大を続けるインフレパラダイムの時代の議論ではないでしょうか。
また、異次元緩和とはポートフォリオ・リバランス効果を期待しているものであって、銀行が日銀当座預金を取り崩して、それを原資にして貸付などを増やすという関係にはありません。
ですから、400~500兆円に膨らんでいる日銀当座預金が市中に出ていくというものでもありません。
第二に、民間銀行とて、かつてほど国債を保有したいとは思わなくなっている可能性があります。
先般、東京三菱UFJ銀行が、財務省に対して、国債発行市場で一定量の国債購入を引き受けることを約束している「国債プライマリーディーラー」という資格を返上しました。
いままでは、国債は国が元本保証する「信用リスクゼロ」の金融商品として、バーゼル規制上、自己資本比率の分母(資産)に算入しなくて良い扱いでしたし、不良債権処理に懲りた銀行は民間への貸し付けでリスクをとるよりも、国債への運用を選好してきました。
最近では、異次元緩和のもとでの「日銀トレード」で日銀が国債を買ってくれますから、民間金融機関も喜んで国債を買っています。
しかし、いま、新バーゼル規制として導入が予定されているのが、「金利変動リスク」を自己資本比率の計算に入れるということです。
国債もマイナス金利となっている状況では、金利変動リスクを考慮に入れざるを得ません。
銀行の国債保有にもBIS規制上の制約がかかるようになりますし、銀行にとっても、あまりに多額の国債保有はリスクだとの認識が強まっています。
ですから、出口を迎えて、日銀が異次元緩和前の水準まで銀行に国債を売り戻そうとしても、そこまで銀行は国債を買い戻そうとはしないかも知れませんし、それが望ましいともいえないようにも思われます。
●保有国債の額を維持しても金融引き締めをする手段はある?
ただ、マネタリーベースを縮小しなくても、金融引締め政策の手段は他にもあります。
第一に、日銀当座預金に付利をする、つまり、金利をつけることです。
基本的に日銀当座預金は、預金者からの現金引き出し要請に銀行が応えられるよう、民間銀行の預金の一定比率(預金準備率)を日銀に預託しなさいという準備預金制度が核になっています。この準備預金の金利はゼロです。
いま、量的緩和と呼ばれる金融政策で増えてきた日銀当座預金とは、この準備預金の額を上回る「超過準備」です。
その部分の金利は、本年2月までは0.1%でしたが、それ以降、新規に積まれる日銀当座預金の部分についてマイナス0.1%としたのが、「マイナス金利」政策です。
これは何も、日銀におカネを積むより市中への貸付におカネを回せ、と、銀行に慫慂する政策ではありません。そんなことをすると銀行は日銀に国債を売却できなくなります。日銀に国債を売った代金は日銀当座預金に自動的に積まれるからです。
それは銀行の運用の財源として取り崩される性格のものではありません。
そうではなく、日銀への国債売却で銀行が巨額に積んだ日銀当座預金の金利が、上記のようにほとんど金利収入を生まない、一部はマイナスだということになると、銀行はもっと金利の高い貸し付けなど市中への運用を増やして、銀行全体としての資産収益率を維持しようとする。
異次元緩和で期待されているのは、こうした「ポートフォリオ・リバランス」効果です。
もし、日銀当座預金に「付利」をして、その金利を引き上げれば、市中運用に比べた日銀当座預金の「不利」な度合いが相対的に低下し、このポートフォリオ・リバランス効果も抑制されることになります。
ただ、日銀の側では、保有国債の見合いの負債である日銀当座預金に金利コストがかかるようになりますから、その分、日銀の利益が減って、国庫納付金が減るという副作用があります。
政府としては、日銀に支払った国債金利の全額ではなく、それに対応する日銀当座預金の金利分を差し引いた金額だけ、利払い費が節減できるということになります。
第二に、日銀が売出手形オペをすることです。この購入代金分、日銀当座預金は減少し、日銀の負債構成は当座預金から手形へとシフトします。
ただ、手形の金利分だけ日銀には金利負担が発生します。これもコストがかかります。
第三に、預金準備率の引上げです。
本年8月末時点で日銀当座預金は約300兆円ですが、これと、現状の民間銀行の預金残高との比率をもって準備預金率だと設定すれば、銀行が現状以上に信用拡大(預金の増大)をすることが抑制されます。
現行法のもとでは、日銀当座預金200兆円程度に対応する水準まで預金準備率を引き上げることは可能なようです。
ただ、銀行にとっては、金利を生まない日銀当座預金に多額の運用資産が張り付くことによる機会費用を挽回する道としての市中運用拡大の道が塞がれてしまうので、預金金利を下げたり、貸付金利を上げるなど、ユーザーにコストを転嫁する恐れがあります。
このように、日銀当座預金を縮小しなくても金融引き締めの手段はありますが、いずれもそれなりのコストが発生しますので、これらだけに頼るわけにもいかないようです。。
●永久国債オペができる範囲はあるのではないか。
以上を踏まえれば、次のことはいえると思います。
つまり、日銀が「出口」以降のいずれかの時点で金融引締めのために保有国債を減らして日銀当座預金を縮小させる必要に迫られることがあるとしても、保有国債をゼロにすることは考えられないということです。
本年8月末時点で約400兆円(397兆円)まで膨らんだ保有国債は、異次元緩和政策を始める直前の2013年3月末は125兆円でした。異次元緩和の3年半で271兆円増えたのですが、それ以前も100兆円を上回る国債を日銀は保有していたわけです。
日銀の金融政策の自由度を制約せずに、先の永久国債オペが可能な範囲は一定程度、ありそうです。
次回以降のビデオレターで、この論点を議論していきます。
松田まなぶのビデオレター、第44回は「財政再建と金融引き締め、永久国債の出口戦略とは?」チャンネル桜、8月30日放映。
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