将来の税負担につながらない財政投融資、機動的な財政政策への第3の道。(松田まなぶのビデオレター)
- 2016/06/19
- 10:41
将来の税負担につながらない財政投融資、機動的な財政政策への第3の道。(松田まなぶのビデオレター)
●アベノミクスは成長の必要条件として正しい
先の伊勢志摩サミットでは、世界経済がリーマン前と同様のリスクが高まっていることや、財政政策の協調についての合意を安倍総理が目指しました。
それは消費増税再延期の布石でしたが、その場合に、その理由はアベノミクスの失敗ではない、日本経済はアベノミクスで改善しているが、世界経済が心配だからだという大義名分を得るものでした。
ただ、もう一つ、日本が大型の経済対策をとりやすくする環境整備もあったと思います。
サミットの場でどこまで明確な合意ができたかは議論の余地があるとしても、いまの日本経済に必要な措置なのであれば、何もこの場で合意されるまでもなく、日本として財政政策を堂々と打ち出せばよいと私は思います。
日本経済が、消費増税で個人消費が腰折れする弱い状況であるのは事実でしょう。
ただ、これは「アベノミクスの失敗」とはいえません。
3本の矢のアベノミクスそのものは正しく、経済状況が以前に比べて改善しているのは事実です。
そもそもアベノミクスは成長の必要条件です。
成長の環境条件を整えるものであって、それに色々なことを組み合わせないと必要十分条件にはならない性格のものだと考えます。
必要条件なのだから、それ自体は正しいものです。
では、何を組み合わせれば必要十分条件になるのかが課題です。
●金融政策、財政政策、成長戦略
すでに日本は金融政策は相当なことをやっています。
成長の環境条件として金融政策は大変がんばっています。
しかし、日銀に当座預金を積み上げても、銀行がリスクテイクしなければ市中マネーは顕著には増えません。市中マネーが増えなければ、2%の物価目標も達成できまません。
金融政策は民間によるリスクテイクの環境条件をつくるものであり、あとは銀行のリスクテイクです。民間による挑戦です。
その際、やはり、総需要が増えて銀行が貸出できる先が増えないと、市中マネーは増えないという壁に金融政策はぶつかっています。
そこで、第2の矢の機動的な財政政策による総需要の追加が求められるのですが、財政政策には財政再建という制約があります。
第3の矢の成長戦略には、それ自体が効果に時間がかかるという壁があります。
その中で、マイナス金利にまで進んでいる金融政策に政策手段を頼り、専らそこに負担がかかってくることになると、それも限界に直面することになります。
ここは財政政策の出番となるわけですが、プライマリーバランス目標のもとでは国債は増やせないという制約があるだけではありません。
日本は先進国で最も政府におカネがない国です。
それは、高齢化の進展に伴う社会保障給付の増大を賄えるだけの消費税率引上げを先延ばしし続けてきたために、社会保障に財源をとられ、他の分野は緊縮財政を強いられているからです。
かと言って、消費税率を引き上げられないぐらい日本経済は弱い。そして国債は増やせない。政策は袋小路に見えます。
別の知恵や工夫はないものでしょうか。
●大事なのは資産運用の質
実は、日本は世界最大の対外純資産国です。政府にはおカネがなくても、国全体でみれば、国内では巨額の国債に運用してもなお余りあるおカネが世界に流れています。日本の対外純資産残高は2015年末で339兆円、世界ダントツ一位をずっと継続しています。
国債発行が増えても、それだけのバッファーがあることからみても、そこに量的な制約がある状況とはいえないでしょう。国家全体の破綻にはほど遠い状態です。
問題は、日本の金融資産の中身です。
資産運用は本来、それによって富を生み出し、そこから収益を得るためになされるものですが、そうではない資産運用である赤字国債、つまり、将来に富を生み出さずに税負担だけを生み出す資産運用の比重が高まっています。
大事なことは、次の世代に有用な資産を残し、生産性を高める資産運用です。ポートフォリオの質が大事です。
こう考えれば、赤字国債は減らしていく一方で、建設国債を増やしてもいいということになります。
ただ、建設国債も、それによって創られる資産の中身を十分に吟味しなければ、将来世代にとってありがた迷惑な資産のために将来世代が税負担をすることになりかねません。
●財政投融資と将来の税負担につながらない国債
ここで登場するのが財政投融資と財投債です。
これは国による融資や投資ですから、それ自体が資産形成です。
その財源は国債ですが、その償還は税金ではなく、国による融資などによって返ってくるおカネが返済財源になります。
財政投融資の貸付先である政策金融機関(日本政策金融公庫など)の場合は、中小企業など、貸出先の経済活動を促進し、その果実でおカネが返済されます。
財政投融資の貸付先である事業実施機関(有料道路など)の場合、それで整備されるインフラの使用料金収入が返済財源になります。これはインフラの利用者が得る便益に見合って利用者が負担するもので、一般国民が負担する税金とは異なります。
この財政投融資の財源に充てられる国債は他の国債とは区別なく発行されていますが、その部分については、普通国債(赤字国債や建設国債やそれらの借換債)のような償還ルールの外側にあります。税負担で償還されるものではないからです。
秋にも策定されると予想される経済対策に向けて、たとえば整備新幹線の財源に財政投融資を活用すべきとの議論が出ていますが、国債マイナス金利のいま、国債で財源を調達し、将来の税負担につながらない財政投融資は、経済対策の柱として大いに期待されるものです。
かつて何かといえば行革に反するとしてやり玉にあげられてきたのが財政投融資ですが、いまこそ出番。
今回のビデオレターでは、財政投融資の意義を見直してみました。
松田まなぶのビデオレター、第38回は「財政投融資、機動的な財政政策への第3の道」チャンネル桜、6月7日放映。
こちらの動画をご覧ください。
●アベノミクスは成長の必要条件として正しい
先の伊勢志摩サミットでは、世界経済がリーマン前と同様のリスクが高まっていることや、財政政策の協調についての合意を安倍総理が目指しました。
それは消費増税再延期の布石でしたが、その場合に、その理由はアベノミクスの失敗ではない、日本経済はアベノミクスで改善しているが、世界経済が心配だからだという大義名分を得るものでした。
ただ、もう一つ、日本が大型の経済対策をとりやすくする環境整備もあったと思います。
サミットの場でどこまで明確な合意ができたかは議論の余地があるとしても、いまの日本経済に必要な措置なのであれば、何もこの場で合意されるまでもなく、日本として財政政策を堂々と打ち出せばよいと私は思います。
日本経済が、消費増税で個人消費が腰折れする弱い状況であるのは事実でしょう。
ただ、これは「アベノミクスの失敗」とはいえません。
3本の矢のアベノミクスそのものは正しく、経済状況が以前に比べて改善しているのは事実です。
そもそもアベノミクスは成長の必要条件です。
成長の環境条件を整えるものであって、それに色々なことを組み合わせないと必要十分条件にはならない性格のものだと考えます。
必要条件なのだから、それ自体は正しいものです。
では、何を組み合わせれば必要十分条件になるのかが課題です。
●金融政策、財政政策、成長戦略
すでに日本は金融政策は相当なことをやっています。
成長の環境条件として金融政策は大変がんばっています。
しかし、日銀に当座預金を積み上げても、銀行がリスクテイクしなければ市中マネーは顕著には増えません。市中マネーが増えなければ、2%の物価目標も達成できまません。
金融政策は民間によるリスクテイクの環境条件をつくるものであり、あとは銀行のリスクテイクです。民間による挑戦です。
その際、やはり、総需要が増えて銀行が貸出できる先が増えないと、市中マネーは増えないという壁に金融政策はぶつかっています。
そこで、第2の矢の機動的な財政政策による総需要の追加が求められるのですが、財政政策には財政再建という制約があります。
第3の矢の成長戦略には、それ自体が効果に時間がかかるという壁があります。
その中で、マイナス金利にまで進んでいる金融政策に政策手段を頼り、専らそこに負担がかかってくることになると、それも限界に直面することになります。
ここは財政政策の出番となるわけですが、プライマリーバランス目標のもとでは国債は増やせないという制約があるだけではありません。
日本は先進国で最も政府におカネがない国です。
それは、高齢化の進展に伴う社会保障給付の増大を賄えるだけの消費税率引上げを先延ばしし続けてきたために、社会保障に財源をとられ、他の分野は緊縮財政を強いられているからです。
かと言って、消費税率を引き上げられないぐらい日本経済は弱い。そして国債は増やせない。政策は袋小路に見えます。
別の知恵や工夫はないものでしょうか。
●大事なのは資産運用の質
実は、日本は世界最大の対外純資産国です。政府にはおカネがなくても、国全体でみれば、国内では巨額の国債に運用してもなお余りあるおカネが世界に流れています。日本の対外純資産残高は2015年末で339兆円、世界ダントツ一位をずっと継続しています。
国債発行が増えても、それだけのバッファーがあることからみても、そこに量的な制約がある状況とはいえないでしょう。国家全体の破綻にはほど遠い状態です。
問題は、日本の金融資産の中身です。
資産運用は本来、それによって富を生み出し、そこから収益を得るためになされるものですが、そうではない資産運用である赤字国債、つまり、将来に富を生み出さずに税負担だけを生み出す資産運用の比重が高まっています。
大事なことは、次の世代に有用な資産を残し、生産性を高める資産運用です。ポートフォリオの質が大事です。
こう考えれば、赤字国債は減らしていく一方で、建設国債を増やしてもいいということになります。
ただ、建設国債も、それによって創られる資産の中身を十分に吟味しなければ、将来世代にとってありがた迷惑な資産のために将来世代が税負担をすることになりかねません。
●財政投融資と将来の税負担につながらない国債
ここで登場するのが財政投融資と財投債です。
これは国による融資や投資ですから、それ自体が資産形成です。
その財源は国債ですが、その償還は税金ではなく、国による融資などによって返ってくるおカネが返済財源になります。
財政投融資の貸付先である政策金融機関(日本政策金融公庫など)の場合は、中小企業など、貸出先の経済活動を促進し、その果実でおカネが返済されます。
財政投融資の貸付先である事業実施機関(有料道路など)の場合、それで整備されるインフラの使用料金収入が返済財源になります。これはインフラの利用者が得る便益に見合って利用者が負担するもので、一般国民が負担する税金とは異なります。
この財政投融資の財源に充てられる国債は他の国債とは区別なく発行されていますが、その部分については、普通国債(赤字国債や建設国債やそれらの借換債)のような償還ルールの外側にあります。税負担で償還されるものではないからです。
秋にも策定されると予想される経済対策に向けて、たとえば整備新幹線の財源に財政投融資を活用すべきとの議論が出ていますが、国債マイナス金利のいま、国債で財源を調達し、将来の税負担につながらない財政投融資は、経済対策の柱として大いに期待されるものです。
かつて何かといえば行革に反するとしてやり玉にあげられてきたのが財政投融資ですが、いまこそ出番。
今回のビデオレターでは、財政投融資の意義を見直してみました。
松田まなぶのビデオレター、第38回は「財政投融資、機動的な財政政策への第3の道」チャンネル桜、6月7日放映。
こちらの動画をご覧ください。
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