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松田まなぶのビデオレター、第28回「リスクとリターン、マイナス金利と銀行に課せられた使命」

 マイナス金利が話題になっています。国民生活にまで大きな影響が出てくるのかと心配する方もいます。
ただ、金利がマイナスといっても、銀行がこれから日銀に積む当座預金の金利がそうなるに過ぎません。一部の例外を除き、市中の金利がマイナスになるわけではありません。

しかし、日本では初めてのこの政策、市場では方向性がまだつかめていないのか、混乱もみられます。長期国債の利回りがマイナスになる事態も生じました。銀行の収益が圧迫されるとの懸念から銀行株が売られたりもしました。

では、日銀はなぜ、この政策を決めたのでしょうか。
そして、その効果や意味はどう考えればよいのでしょうか。

松田まなぶのビデオレター、第28回は「リスクとリターン、マイナス金利と銀行に課せられた使命」。チャンネル桜、2月10日放映。
こちらをクリックすると、今回の松田まなぶの動画を見ることができます。


これまで、アベノミクス第1の矢である「異次元の金曜緩和」では、日銀が金融機関から毎年80兆円もの国債を購入して、日銀の資産を倍増してきました。
金融機関の側では、国債売却で得られたおカネを市中に貸し付けるなどの運用を行うことで、初めて、この政策の目的である市中マネーの増大が実現します。

しかし、実際には、銀行はそのおカネを日銀の当座預金に積んだままでした。
結局、日銀の資産が国債購入で膨らんだ分、日銀の負債が銀行からの当座預金で膨らみ、日銀のバランスシートが2倍以上に拡大したということが起こっただけで、市中のおカネは少しは増えましたが、前年比数%程度の増え方に過ぎません。

こうして銀行が日銀に積んだ当座預金にはプラス0.1%の金利がつきます。
これは「ブタ積み」と揶揄されています。銀行からみれば、安全資産である国債から、これも安全資産である日銀当座預金へと、資産内容を振り替えただけに過ぎません。



今回のマイナス金利は、この状態を打破して、金融機関が市中にもっとマネーを供給するようにしようとするものです。
次の図をご覧ください。



そもそも銀行は、預金の引き出しなどに備えて、日銀に一定の準備預金を積んでおくことが義務付けられています。それが図の②の「所用準備額」で、約40兆円です。金利はゼロ%です。

日本ではすでに2001年から「量的金融緩和政策」と言って、この準備額を超えて当座預金を積ませる政策を導入していました。この、所用準備額を超えて積まれた部分が図の①の部分です。
アベノミクスでこの①が著しく拡大し、現在では約210兆円もの残高になっています。

この①にはプラス0.1%の金利がついていますが、今回、この状態は変えずに、2月16日以降、これを上回って新たに銀行が日銀当座預金を増やす部分について、マイナス0.1%の金利を適用することにしたものです。図の③の部分です。

 銀行は①の部分で毎年、2,000億円もの金利収入を得ています。
 今回の措置で銀行の収益が悪化するとの懸念から銀行株が売られたりしましたが、この、日銀から銀行界への一種の補助金のような部分か依然として続くわけです。

 これまで、これだけの緩和政策を続けながら、政策の意図とは反して日銀に積んできた銀行の行動を変化させるために、今後、新たに日銀に預金を積んでも、その部分は金利はマイナスとしたわけです。
 銀行は、日銀に預ければ有利だからこそ、日銀に「ブタ積み」をしてきました。
 本来であれば、それは0.1%という低い金利ですから、それよりも、市中への貸付や運用に回したほうが有利と判断して市中のマネーが増える、これを「ポートフォリオ・リバランス」と言いますが、この効果を狙っていました。

 しかし、プラス0.1%だと、この効果が出てこない。ならば、日銀に預けることを、市中での運用に比べて有利でなくする。預ければむしろ、マイナス金利というペナルティを取られる、ならば、日銀預金ではなく、リスクをとって市中にもっと貸し出し、運用しよう。
 このような方向に銀行を追い込むことが今回の政策です。

 色々な批判があります。
 代表的な批判は、「現在、そうでなくても金利が異常に低く、おカネを貸し付けても利ザヤが稼げないでいる銀行は、金利が全般的にさらに下がれば、ますますおカネを貸しにくくなる」というものです。
 しかし、集めた預金を国債購入か日銀に預けていたほうが確実に儲かるということでは、銀行の使命は果たせません。
 現状は、国債や日銀預金という安全資産に逃げて、銀行の本来の使命が十分に果たされていません。
 銀行財務の健全化に偏るあまり、安倍総理が進める「チャレンジ」をサポートする方向には十分に機能してこなかったのが実態です。

 たとえ、いま融資すれば将来性が見込める事業でも、二期連続で赤字であるなどの形式基準がクリアーされていないなら、貸さない。かつては経営者の人をみて、技術を見て、経営を見て、貸付をしてきたのが、バブル崩壊後は専ら担保価値しか見ない銀行員たち。皆さん、リスクをとることに責任を回避して、金融庁のせいにする。

 しかし、その金融庁も最近は、もっと中小企業に融資する方向へと、方針を大転換しています。なのに、銀行は、笛吹けど踊らず、です。土地担保融資に偏るあまり、かつてのような「目利き」能力そのものが銀行側では劣化しているという指摘もあります。

 こうした金融機関の行動のあり方そのものを立て直し、日本経済がもっとリスクテイクに向けたマネー循環が起こるように金融機関を追い込んでいく。
 今回のマイナス金利政策には、そのような意味があると思います。

 例えば、かつては「経常運転資金」なる短期の手形貸付が中小企業に対してなされていました。期日が来ればロールオーバーし、無担保でも確実な貸付として、中小企業側にとつては、実質的に返済不要な疑似資本金とされていました。
 しかし、バブル崩壊後、金融行政当局がこれに厳しい姿勢で臨んだため、この慣行が崩れました。結果として、中小企業の資金繰りを圧迫、デフレの原因になったとされます。
 最近、金融庁は方針転換しましたが、未だに「健全化モード」から脱しきれない銀行側に、行動の変化はないようです。
 
 もし、金融機関の形式基準に縛られた保守的な態度が大きく変わらなければ、マイナス金利で行く場を失ったおカネは、まずは国債に向かうでしょう。そこで、国債の利回りがマイナスになる事態も起こりました。
 その原因の一つには、黒田日銀総裁が、今後、今回のマイナス金利幅をさらに拡大していく可能性があると発言したことがありました。さらに金利が下がる、ならば、国債価格はさらに上がる、ということで、金融機関が国債に殺到することになります。
 これでは国債バブルになります。額面以上の高い値段で買った国債は、満期まで持てば損が出ます。

 銀行が融資先の開拓を怠ったたままでは、銀行は運用先に困って、不動産融資を大幅に増やすようになるかもしれません。結果として、かつてのような資産バブルが再燃する心配もないわけではありません。

 大事なことは、金融機関が国債や日銀預金などの安全資産に逃げる「健全化モード」から脱し、かと言って、バブルモードに向かうことがないよう、中小零細企業のチャレンジをサポートする能力を再構築していくことではないでしょうか。
 この根本問題に手をつけることで、「挑戦」という安倍政権の根本思想を日本経済で実現する。
 こうして実体経済にもっとおカネが回ることで、アベノミクスの目的を達成していくことが何よりも重要だと思います。

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松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。

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