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松田まなぶの論点、アジアインフラ投資銀行(AIIB)をどう考えるか。

  筋を曲げず、ブレることなく、これがAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対する日本のスタンスであるべきです。先日も発信したように、国際金融は自由市場経済とは異なり、国家間の熾烈な戦略競争の世界であり、日本を官民一体でマネー戦略を遂行できる強い国にすることは保守政治の重要な役割の一つだと思います。ただ、通常、こうした国家戦略は市場の裏側で隠れた形で発動されますが、中国主導で設立されるAIIBの場合は、まさに国益丸出しの分かりやすい事例といえるでしょう。日本の国益は、これに対してあくまで原理原則を貫き通すところにあります。

アジア太平洋秩序の形成に向けた国家戦略の試金石
  超高齢化社会が進展する国内では資金需要が伸びず、アベノミクスでも肝心の市中マネーは簡単には増えないとしても、海外に目を向ければ、日本の周辺には、世界で最も成長するアジア太平洋地域があります。いま話題のTPPも大筋としては、市場としても投資先としても、この地域を開かせて日本の繁栄の舞台にすることが戦略上の眼目になります。この地域をどの国が主導するのか、熾烈なる世界大競争が繰り広げられています。

  そこには、米国主導(TPP)vs中国が主宰するアジア太平洋地域、という対抗軸があります。安全保障面で太平洋東西二分割という中国の野望が囁かれている中で、経済面でも中国秩序が着々と形成されようとしている現実を直視すれば、TPPが恐いからと、日本がそこから逃げ、反対を唱えているだけで済む問題ではないことがわかります。

  AIIBもそうです。私は、これからのアジア太平洋秩序とは、米国でもない、中国でもない、「日本新秩序」だと提唱していますが、うまくそこにもっていけるか、したたかな国家戦略が日本には問われています。その試金石としてAIIBを位置づけるべきでしょう。
アジア地域では2020年まで年7,300億ドル、つまり、年間で約87兆円規模のインフラ投資需要があるとのアジア開発銀行の試算があります。そこには、2010~2020年の10年間では8兆ドル(960兆円)もの膨大なインフラ需要があるとされており、これは日本の一年間の国内総生産GDPの約2倍です。

  これを巡って、北京に本部を置き、資本金1,000億ドル(当初500億ドル)の最も多くを中国が出資し、中国人が総裁を出すAIIBは、このままでは、各国代表による理事会ではなく、中国人総裁が投融資先を決める、そこに参加各国が資本金として巨額のおカネを出すという形になりかねません。
AIIBの設立は、第二次大戦後に米国主導で形成された国際金融秩序、つまり、米ドル基軸通貨体制のもとでIMF(国際通貨基金)、WB(世界銀行)、ADB(アジア開発銀行)を中核とする世界経済システムを快く思っていない中国が、これに挑戦するものだと受け止められています。この秩序を運営してきたのはG7であり、米国も、この秩序に組み込まれてきた日本も、AIIBの設立には疑問を表明してきましたし、現在も「懸念」を突きつけています。



日本の国益はRule of Law(法の支配)

  中国側から「AIIB創設メンバーに属しなかった国の企業は関連工事を受注しにくくなるだろう」との見解が流れたとされますが、巨大な中国やアジアの成長経済に食い込みたい国々は「バスに乗り遅れるな」とばかり、次々と「参加」表明し、その「期限」とされた本年3月末までに、アジア諸国だけでなく、英国など欧州諸国までが次々とこの流れに乗ることになりました。

  そこには、英国以外にも、ドイツ、フランス、イタリアといったG7諸国が加わり、「参加」国数は現時点で57か国とされ、67か国/地域が参加するアジア開発銀行に迫る数に膨れ上がっています。この流れの中で、日本は日米同盟を重視するあまり、乗り遅れているのではないか、日本もアジアビジネスに食い込めるよう、AIIBに積極的に参加すべきではないかといった声が、日本の経済界などからも出るようになりました。

  さて、すでに経済規模では日本を追い抜き、軍事大国として安全保障面でも脅威的存在と映る中国に向き合うに際して、日本の国益はいかなるスタンスをとることによって確保されるでしょうか。私は、それはズバリ、Rule of Law、「法の支配」であろうと考えます。

  安全保障面では、尖閣や南シナ海など、海洋の国際法秩序を守るということを軸に、フィリピンやベトナム、あるいは豪州などの海洋諸国と日本が連携関係を強化していくべきです。TPPとは、経済面での法の支配に向けたルール形成であり、国際秩序づくりです。安全保障面のみならず、経済面でも、法の支配という面では、日本は米国と組んだほうが国益になるといえます。
AIIBは、まさに政治と経済が交差する国際金融という領域におけるアジア太平洋の秩序づくりに関わる問題です。国内の経済界から「バスに乗り遅れるな」と言われても、政権や政府としては安易な妥協はせずに原理原則を貫くべきです。

  では、AIIBの場合における原理原則とは何でしょうか。それは、日本の財務省がことあるごとに中国に突きつけてきた次の「3つの懸念」に表されています。

  第一に、「公正なガバナンス」です。各国が自国の血税で資本金を拠出するのですから、中国人総裁の勝手な判断で、中国の国益優先で資金運用がなされることは、参加各国とも許せないはずです。IMFであれ世界銀行であれ、理事は常勤で、頻繁に理事会が開催され、意思決定していますが、AIIBの場合、理事は非常勤。加盟各国を代表する理事会が個別案件の審査や承認をする体制でなければなりません。

  第二に、「債務の持続可能性」です。AIIBが安易な貸し付けに走り、受けた国の側で債務状態が悪化し、デフォルトという事態になれば、その国に貸している他の国際金融機関や他国の政府、金融機関まで損害を被ることになります。

  第三に、「環境問題や社会(人権)に対する配慮」です。既存の国際金融機関の場合、地球環境を悪化させるプロジェクトや人権侵害を行っている国に対する投融資には抑制的に対応して、それらの改善を求めるルールが存在しますが、果たして中国が国際社会の責任ある一員としてこの点にどこまでコミットするのかということです。
しかし、残念ながら、中国側からは、これら懸念に対する明確な答は出てきませんでした。それは、AIIBの具体的な中身が今後の国際交渉によって決まる面が大きく、未定であることにもよるでしょう。

内側と外側からAIIBにプレッシャー

  どうも、AIIBについてはミスリーディングな報道も多いようです。実は、この国際交渉というものはこれから行われることになっており、実際にAIIBがどのようなものになるかは、これからの問題です。本年3月末までの期限に向けて、欧州勢を含めた各国が駆け込み的にAIIBに「参加」したと受け止められていますが、その「参加」とは必ずしもAIIBそのものへの参加ではなく、この国際交渉、つまり、AIIBの設立協定(AOA:Article of Agreement)を決める交渉への参加です。正式参加はその数か月後のことで、日本はこの交渉に参加しない決断をしただけです。

  本年6月までにAOAの締結が目指されていますが、実際には、特に新規に交渉参加を表明した国々からの厳しいチェックによって、AOAがそう簡単に妥結するとは限らないという見方もあります。交渉参加各国は、交渉で主張が通らなければ参加しないというオプションもあります。

  ここで重要なのは、G7がAOAをどう評価し、G7諸国がどう行動するかです。G7は、内側から物を言う立場(欧州勢)と、外側から物を言う立場(米国、日本、カナダ)に分かれただけで、AIIBをチェックする上でのアプローチの違いに過ぎないともいえます。重要なのは、評価できないものならサインするのはやめようという点で、G7諸国が共同歩調を取ることができるかどうかです。中に入った国の中でも、特にドイツは規律や原理原則を重視する国です。これで「トロイの木馬」になったという声すら聞こえてきます。



  いずれにしても、日本国民からみれば、AIIBに参加して数千億円のオーダーで血税を投入し、その使途は中国人の総裁に委ねられてしまうのでは、納税者として到底、許容できない話になります。それは他の欧州勢なども同じでしょう。

  ただ、このAIIBが現実に、国際経済秩序を大きく変えるだけの脅威的な存在になるとは限りません。まず、中国が狙ってきた人民元の国際化に資するとは必ずしもいえません。アジアはドル通貨圏であり、AIIBも基本的にドル建て貸付になります。米ドル基軸通貨体制を揺るがすとまではいえません。中国が世界一の4兆ドル近い外貨準備を持っていても、これは人民銀行(中国政府)が保有しており、それがそのまま使われるわけでもありません。

AIIBを脅威にしないために、日本は賢くしたたかに。

  資本金を1,000億ドル積んだところで、前述の数字のような膨大なアジアのインフラ需要には到底、応えられません。AIIBは資本を活用してレバレッジを利かせ、国際金融市場から貸付原資を調達することになります。その際の最大の課題が、債券の格付けであり、AIIB債券がトリプルAを取れるかどうかです。

  アジア開発銀行(ADB)の債券はトリプルAです。AIIBが取れなければ、ADBに比べて貸付金利は有利なものにはなりません。AIIB債券が高格付けを得るためには、国際金融市場からの信認が得られなければならず、そのためには、少なくとも、日本が突きつけている前述の3つの懸念が解消されることが必要であるはずです。

  また、実際の業務運営に当たっては、ADB(あるいはWBなど)との連携や協調融資が極めて重要になるでしょう。そうであってこそ、ある程度の規模の資金を有利な条件で調達できるようになるのではないでしょうか。ADBの総裁は日本人です。

  以上から見えてくるのは、AIIBが実際には成功しない可能性が高く、成功するとすれば、それは日本が突きつけている懸念が解消されるような中身になり、日本にとって困る存在にならないからこそ成功するのであって、いずれの場合であっても、日本の国益に大きく反する結果にはなりにくいということです。最も国益に反するのは、「バスに乗り遅れるな」論で中途半端な形のAIIBに日本が拙速に参加することではないでしょうか。

  中国は本音では日本の参加を望んでいます。安易な妥協はせず、AIIBが良いものになるようプレッシャーをかけ続け、この面でG7の共同歩調を維持していく。良いものになる(=実際に機能するようになる)保証はありませんが、良いものになるのであれば、やりようによっては、もしかすると、日本は大きな果実を得ることになるかもしれません。

  もちろん、ガバナンスがきちんとすることが最低限の前提ですが、出資比率はアジア域外国より域内国のほうがずっと高く、域外国には拒否権は与えず、域内国の日本が参加すれば相当な発言権を持ち得るという話もあります。中国側から日本に副総裁ポストのオファーもあったようです。日本がしたたかな戦略国家になれるかどうか、財務省の手腕が問われます。

  むしろ心配なのは、日本の経済界です。入札に食い込みにくくなるとしてAIIBへの性急な参加を政権に要請するよりも以前の問題として、そもそも海外のインフラプロジェクトの中に日本はあまり食い込んでいないという問題があります。ADB案件ですら、日本勢はほとんど受注できていません。
やはり、自国経済の競争力を強化し、日本企業が国際舞台でしたたかに立ち回るようになることが、強い国、ニッポンに向けて歩むべき王道ではないでしょうか。




AIIBに対して筋を通そうとしている日本国財務省。前庭には春の花
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松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。

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