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松田まなぶ 欧州出張報告⑤

第5回 ドイツ[その2]~労働市場も公務員制度も、論理の貫徹こそが改革成功への道。~

 ここからはドイツが取り組んできた改革について簡単にご報告いたします。私たち衆院内閣委員会の欧州視察議員団がベルリンでヒヤリング調査や意見交換をした先は、①労働市場改革に関しては、「連邦雇用機関」のベルリン事務所長他、及び、関連企業であるアクセンチュア・ドイツオフィス、②公務員制度に関しては、連邦内務省公務員局長他、そして、③ドイツのサイバーテロ対策などに関して、ベルリン州内務・スポーツ省の警察総局も訪ねました。

●アベノミクス成功の上で肝心なのは、おカネが回る仕組みの構築。
 日本ではアベノミクスの「第3の矢」の成長戦略をどうするかが経済政策では喫緊の課題です。いまのところ、「第1の矢」では日銀に国債というおカネを積み、「第2の矢」では政府に公共事業予算というおカネを積んだだけなのがアベノミクスです。しかし、日本にはもともと、積まれたおカネは民間にも十分にあり、それが有り余って海外に流れ出て、世界ダントツ一位の対外純資産(2012年末で約300兆円)を計上し続けてきたわけですから、問題はおカネが不足していることではなく、おカネが回らないことにあることになります。
 大事なのは、おカネが回る「仕組み」を創ることです。その点こそが日本の最大のイシューであり、いまの時代にふさわしい社会システムを各分野で構築していくことで、おカネが回る日本経済にしていかなければなりません。それに向けた構想力が不足していることや、新しい仕組みづくりが必ずぶつかることになる既得権益の壁が、「失われた20年」の停滞の大きな原因だったと思います。
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「ドイツ国会議事堂の一画にて。」

●EUの中でもドイツだけは失業率が一貫して低下し続けてきた。
 雇用を生み、失業を減らすことは、常に経済政策の要と位置付けられていますが、この面でもドイツは欧州の優等生です。リーマンショック後、EU各国の失業率は2009年頃から上昇し始め、これに欧州債務危機による経済停滞が加わり、EU全体の失業率はユーロ導入以降の過去最高を更新、2013年5月は11.0%と、他の先進諸国(米国7.6%、日本4.1%)と比較しても、非常に高いものとなっています。特に財政不安を抱える国々は、緊縮財政を行うことで失業率は悪化しており、ギリシャやスペインは約27%(若年層の失業率はいずれの国も60%に到達しようとする勢い)、イタリアやフランスでは10~12%です。
 ところが、ドイツはまったく逆です。このところ、不況に苦しむ南欧を尻目に失業率は下がり続け、いまや「完全雇用」が視野に入ってきたという状況です。今年の6月には5.4%と、1990年のドイツ統一後の最低水準に並びました。ドイツといえば、10年前はドイツ統合の経済への重石が続く中、財政と雇用の危機(失業率は13%まで上昇)に直面していた国です。そのドイツでその後は、リーマンショック後にわずかな上昇をみせた以外は、失業率がほぼ一貫して低下を続けました。
 この背景にあるのが労働市場の大改革であり、メルケル首相はドイツを再生させた自らの政策手腕を強調しています。本年7月には、ドイツの招待で雇用・失業対策をテーマにEU加盟各国の首脳や閣僚がベルリンに集まりましたが、その際に、メルケル首相は、「おカネだけではよくならない。賢明な改革が必要だ。」と述べたとされています。確かに、経済政策で重要なのは財政や金融のおカネに頼ることではありません。雇用問題の抜本的解決には「競争力の強化と一段の改革への覚悟」が必要(レスラー副首相)なのでしょう。
 雇用の改善は財政にもプラスになります。失業給付が減り、所得税収が増えます。ドイツの財政は、一般政府の財政収支/GDPが▲3%以下とのマーストリヒト基準を2011年に達成、本年2013年には、ほぼ財政均衡を実現しました。いわば、東西統一のコストをようやく払いきったと言えます。前回のご報告(ドイツ[その1])で、「国家を取り戻した国」と私が形容したのも、そうしたドイツの直近の自信あふれる状況を表現しようとした次第です。
 今般の欧州債務危機に際してドイツはEUの他国への支援に「消極的」と批判されてきましたが、ドイツは自国がこれまで厳しい改革を乗り切ってきた経験があり、それを踏まえて各国にも自助努力を求めてきたものです。南欧諸国は現在、その例にならって改革に取り組んでいる最中です。
 では、そのドイツの改革とは何かと言うと、それは2003年に前政権のシュレーダー首相が発表した「アジェンダ2010」であり、長期失業者への失業手当と生活保護を統合することによる就業促進、「ミニジョブ」と言われるパートタイム労働への優遇制度、一部専門職への参入規制の緩和などが、その内容です。
 それについて、私たち一行は連邦雇用機関からその内容や効果や課題などを聴取しましたが、基本理念はまさに、かつては「たち上がれ日本」が掲げ、現在では日本維新の会が提唱している「自立」のコンセプトであり、「働いて自立することこそが人間の幸せ、それを促進することこそが最大の社会保障」という考え方と合致しています。
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「ブランデンブルク門」

●本物の改革のためには政権を賭ける覚悟が要る。
 以下、この労働市場改革についてベルリンで議論した内容をご報告しますと、21世紀を迎えたばかりの頃のシュレーダー政権のもと、ドイツでは旧東ドイツ地域の経済再建が難航し、世界的な不況も相まって、失業問題はドイツが抱える最大の課題の一つになっていました。2005年2月には戦後最悪の失業者数である約529万人を記録するに至ります。当時は、ドイツ統一のコストは計り知れず、失業給付は無限に増えるのみ、対策へのアイデアは無し、などとも言われ、シュレーダー首相は「ハルツ委員会」を設置して、対策とコンセンサスづくりを模索することとなりました。
 2002年8月にとりまとめられたハルツ委員会の報告書は「大ショック」を与えたそうです。その直後に再選されたシュレーダー首相のもとで、報告書に基づいてハルツ第1法~第4法の立法が進められ、「アジェンダ2010」が公表されたのですが、特に、生活保護者を長期失業者とみなすこととしたハルツ第4法は国民に不人気で、そのために2005年には前述のように500万人を超える最悪の失業者数と13.0%という最高の失業率を記録することとなりました。これが政治的には大問題となり、結果として、同年の総選挙でシュレーダー首相が率いる社会民主党(SPD)は敗れ、現在のメルケル政権に交代しました。
 この政権を賭けた「痛みの伴う改革」ですが、「500万人を300万人にした」(2013年6月のドイツの失業者数は287万人)として、その成果を享受することになったのがメルケル首相です。そもそも労組や社会的弱者の利益を代弁するはずのSPD政権が、なぜ、このような改革を手掛けたのかとの私たちからの質問に対する答は、「労組に近い政党だからこそ、労組を説得しやすいから」というものでした。中身は違いますが、日本でも、消費税率引上げという痛みの伴う改革を民主党に決断させて政権交代に追い込み、自らはアベノミクスで国民的人気を享受しているのが今の自民党です。

●失業者を顧客と捉え、職業紹介サービスを徹底的にIT化。
 それはさておき、ここでハルツ改革の柱を紹介しますと、第一の柱は、労働市場関係機関の近代化でした。失業者を失業給付、つまり「おカネをください」とすがる人々と捉えるのではなく、「顧客」として捉え、連邦雇用庁を国民に奉仕するサービス機関へと変身させる「意識改革」が図られました。雇用対策も、女性とか若年層といった特定層へのターゲット別アプローチではなく、「人間」を起点に、ヒト、個人にアプローチすることへと視点の転換がなされました。加えて、成果の評価という視点を取り入れ、評価不可能な施策は切り、透明性を高めました。
 なお、連邦雇用庁は「連邦雇用機関」と名乗る公法上の法人で、ドイツの労働行政は、連邦労働社会省が政策立案を担っているのに対し、この機関は実務を担い、求職者への職業紹介サービス、失業保険制度の運営などを担っています。
 このうち職業紹介サービスについては、ドイツでは、まさに徹底的にシステム化された職業紹介制度が機能しています。求職者各人の情報について職歴やスキルなども含めた詳細なデータベースが全国的に共有され、求人側との間で州を越えたマッチングがなされています。就業斡旋では、データが詳細であればあるほど、そしてその共有範囲が広ければ広いほど、雇用創出効果が大きくなるのは当然です。労働市場改革の一環である「ミニジョブ」については後述しますが、例えば、こうした求人側、求職側双方のニーズにきめ細かに応えることで就業を促進していく仕組みを機能させていく上でも、ITでネットワーク化された情報システムは大きな力を発揮します。
 私たち一行は、このシステムを担うアクセンチュア・ドイツからも、その利便性や効果などについてヒヤリングしました。日本でもぜひ、導入できればと思いましたが、問題はコストです。ドイツでは、当局とアクセンチュアとの厳しい交渉を経て、この手のシステムとしては驚くほど安いコスト(1億ユーロ?)で導入されたということです。
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「ドイツ・アクセンチュアからのヒヤリングにて。」

●「自立」の考えを基本に「福祉から就労へ」、生活保護と失業給付を一本化。
 ハルツ改革の第二の柱は、失業者自身の「自助」の促進でした。これがまさに痛みを伴う部分であり、政治的にも大きなインパクトを与えた部分です。失業者には「助けるが、求める」という姿勢で臨む、これが哲学になりました。つまり、失業者自身の努力や協力なくして失業率の低下はないのであり、失業保険もあくまで「保険」に過ぎず、保険ではない部分で失業者に「求める」ということがなければモラルハザードになり、公的負担が増える一方になるという考え方です。
 この考え方のもと、失業登録の要件も厳しくされました。義務を怠れば、失業給付はカットです。職業を仲介しても、そこに就業したくないとして就業しない人には罰則が適用されます。
 そして、生活保護と失業給付は一本化されました。つまり、公的負担につながるものとしては、①失業保険の給付、②失業扶助、③生活保護の3つがありますが、①については受給期間を短縮し、②と③は統合して「求職者の基礎保障」(ハルツⅣと呼ばれる)という新たな給付制度を創設、「福祉から就労へ」の転換が図られる仕組みが整えられました。
 これが政治的には当時の国民に不人気だったことは前述のとおりです。日本でも200万人以上に全体で3.5兆円も支給されている生活保護については、最低賃金を上回っている例がある、役所を騙して不正に受給している等々の問題が、国民的議論を呼んできました。たちあがれ日本も日本維新の会も、改革の方向として「生活保護から雇用へ」を打ち出してきました。まずは働ける人には働いてもらう、そのために、日本では、雇用を斡旋する仕組みを生活保護制度の中に組み込んでいかねばならないと思います。
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「ドイツ連邦雇用機関と意見交換。」

●「ミニジョブ」制によって就業機会の大幅拡大に成功。
 ハルツ改革の第3の柱は、フレキシビリティー(柔軟性)、つまり、労働市場そのものの活性化でした。これは、求人側と求職側の間のニッチを埋めて、きめ細かく雇用機会を生み、つないでいくことだと私は理解しましたが、ドイツの改革のポイントは「ミニジョブ」の導入でした。
 これは非課税のアルバイトに近い就業形態であり、月450ユーロ(約5万5千円)未満であれば非課税です。いわゆる非正規雇用が促進されたわけですが、企業など雇用する側にとっては社会保障負担も少なくて済むなど、大変便利な仕組みであるとともに、労働者側にとっては、正規雇用に就くところまで這い上がる能力や意欲がない人に対して労働市場のハードルを下げて、働く機会を増やすことになるものです。
 職業教育が伴っていないので、就業先は飲食、接待業、小売など単純な職種が多いとのことですが、それでも失業しているよりはマシであり、社会参加とスキルアップのチャンスを与えることになります。近年のドイツの就業者数増大のかなりの部分が、ミニジョブによるものだということでした。
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「旧東ベルリン地区にあるベルリン大聖堂の正面。」

●ドイツの労働市場改革がもたらしたひずみや課題。
 しかし、連邦雇用機関は、これで良しとしているわけではありません。今後の課題として「労働の質の改善」を挙げていました。私も、これだけでは労働生産性の上昇にはつながらないのであり、次の施策が必要だと感じました。現に、ドイツで問題になり始めているのが、専門労働者の不足だということでした。企業の要求水準が高まり、高学歴の若者でも終身雇用の職を見つけるのは難しくなっているようです。長期失業者に対する本格的な施策もまだ存在していないということです。
 ひずみもあります。雇用情勢の改善といっても、こうした低賃金労働や非正規雇用で全体の雇用がかさ上げされている面があります。専門性のある職種でなければ給与も上がりません。専門職と、熟練度の低い労働者との間で、賃金格差も拡大しています。「ドイツは賃金抑制策で雇用が増えたに過ぎず、他の欧州の国で同じ政策を採れば、かえって総需要の減退で失業が増える」との声もあります。
 ドイツの事例は、その理念やシステマティックな対応、徹底した改革姿勢という点では大いに参考になりますが、実際の政策は各国の国情に応じて考えていくべきでしょう。また、市場メカニズムを機能させるための構造改革は不可欠ですが、他方で、雇用対策の本質は、経済に新分野を拓くことにより、経済全体として労働需要そのものの水準を高めていくことにあることも忘れてはなりません。
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「ドイツ連邦内務省にて。」

●道州制になっても、一つの行政分野内での国と州の役割分担の設計は不可欠。
 最後に、それぞれが主権を持つ16の州から成る徹底した分権型国家であるドイツにおいて、この連邦雇用機関という連邦の組織が州との間でどのような関係にあるか、道州制など統治機構改革を提唱する日本維新の会の議員として私から質問しました。そもそも連邦雇用機関は、職員数11万人の連邦最大の機関だということです。本部はニュルンベルクにあり、各州に置かれる出先機関として地域総局があり、各地域レベルでは職業安定所などを置いています。公法上の法人として、連邦レベルだけではなく、州からの代表も入った委員会が存在し、その意向も踏まえながら運営されているという説明でした。
 この事例をみても、道州制になったからといって、この行政分野は国が、この分野は州が、この分野は基礎的自治体が、という形で明確に分担しきれるものではないかもしれません。連邦雇用機関の地方支分部局は、州政府などと並立しながら協働しているようですし、特に、雇用を全国的にマッチングさせるシステムを駆使しているドイツでは、雇用政策の運営は国のレベルで一体的に遂行する部分が必要になります。日本で今後、道州制を導入するに当たっては、むしろ、一つの行政分野において、全国統一で運営しなければならないシステムの部分と、地方の独自で遂行する部分とを明確化し、それを有機的に組み合わせるような「設計」を大事にしていかなければならないと感じました。
 ちなみに、連邦雇用機関の説明では、どの州の人も州を越えて雇用の場を求めやすくなったとはいえ、もとより土着指向の強いドイツ人は自分の生まれ故郷を離れたがらず、現実には、雇用の仲介はほとんど、それぞれの地方の中で完結しているようです。ドイツはもともと、バイエルン、ザクセン、プロイセン等々、それぞれがほぼ対等の経済力を持つ独立した国々が集まって連邦を形成した国であり、ドイツ全体が統一国家の姿をとったのは、過去においては、19世紀末のビスマルクによる統一から第二次大戦までという短い期間に限られます。この点は、天皇陛下のもとにまとまってきた長い歴史や伝統を有する日本とは違う点であり、それは国民性の違いにもつながっていると思います。
 道州制も日本の国情や国民性に合った道州制を組み立てていく必要があると思います。
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「ドイツ連邦内務省のホフマン公務員局長と。」

●日本と似ているようで異なるドイツの公務員制度。
 ドイツの制度構築で参考になるのが、同国の国民性を反映した論理の徹底性だと思います。次は、そのもう一つの事例として公務員制度について、今回の議員視察の報告をいたします。私たちが内務省に訪ねたのは、公務員局長のハンス・ホフマン氏他でした。
 ドイツの公務員制度は、ポリティカルアポインティー(政治任用)制のもとで政権交代のたびに高級官僚が官と民の間を行ったり来たりする米国とは異なり、日本と同じく終身公務員制です。しかし、トップクラスの400人程度については、あくまで終身公務員の中ではありますが、政治任用を導入していることや、退官後の手厚い恩給制度(年金ではない)のもとで「天下り」がそもそも存在しないということなど、日本とは異なる面があります。
 日本ではこれから秋の臨時国会で政府提出の公務員改革法案が審議され、私たち内閣委員会の所管になります。そこにも政治任用の導入が盛り込まれており、ドイツの仕組みを知っておくことは、今後の論戦の上でも大いに参考になると思いながら、ホフマン局長の話に耳を傾けました。ちなみに同氏はボン大学出身、私と同窓?ということになります。
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「日独の公務員制度の違いについて議論する松田。」


●ドイツの公務員数…日本は先進国一の「小さな政府」。
 まず、ドイツの公務員制度の解説ですが、人口約8,200万人のドイツで、連邦、州政府、自治体を合わせた公務員総数は約442万人、うち、「官吏」(Beamte)と呼ばれる階層が区別されており、それが約170万人、その他は「公務被用者」(Tarifbeschaeftigte)とされ、272万です。日本で国家公務員に当たる連邦公務員は総数約34万人、ホフマン局長によれば、うち一般の官吏が13万人余り、軍が18.5万人ということでした。
 よく「大きな政府」か「小さな政府」かという議論がなされます。長年にわたって行革が政治的テーマの上位に掲げられてきた日本では、ほとんどの政党が常に公務員数の削減を唱えてきました。ただ、公務員数でみれば、実は、G5の先進国の中でも日本は最も「小さな政府」です。
 国家公務員、政府企業職員、地方政府(自治体)職員、軍人・国防職員の合計で、人口千人当たり公務員数を比較してみると、フランスが86.6人(08年)、米国が77.5人(09年)、英国が77.2人(08年)、ドイツが54.3人(08年)に対し、日本は31.6人(09年)に過ぎません。OECDの中で比較可能な26か国の中で総労働力人口に占める一般政府雇用の割合をみても、日本は5%と最低水準です。公務員給与が多いわけでもありません。一般政府の雇用者報酬の対GDP比をOECDの中で比較可能な28か国の中でみても、日本は6%と、公務員人件費が先進国の中で最も安上がりな国です。
 公務員数ではG5の中でドイツは日本に次いで2番目に小さな政府ですが、ドイツの特徴は、やはり分権型国家であるためか、地方政府の職員の数が相対的に多く(上記の54.3人のうち38.4人、日本は22.4人)、連邦職員の数は日本より少ない(同じく2.2人、日本は2.5人)ということです。日本に道州制が導入されれば、国家公務員数の人口比率も、このドイツより低くなるかもしれません。
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「ベルリンには広大な郊外、かつては国境だった橋の夕暮れ。」

●手厚いドイツの恩給制度…退官後の公的な生活保障が薄いのが日本の公務員。
 ドイツには明確な資格・職階制度があり、官吏は高級職(総合大学卒でドイツでは修士)、上級職(単科専門大学卒)、中級職、初級職の4つに分かれています。2年間の試用期間を経て終身の官吏に任用され、現在は65歳2か月の定年(今後、段階的に67歳まで引き上げられる予定)まで働いたあとは、恩給が支給されます。日本にもかつては恩給制度がありましたが、現在は年金制度しかありません。このドイツの恩給ですが、勤続40年の官吏の場合、退職前3年間の平均給与の71.75%と、かなりの手厚さです。
 ちなみに、国家公務員の退官後の所得保障についてみると、日本の人事院が作成した試算によれば、例えば局長級で退職した国家公務員(勤続38年、年金満額支給年齢で退職した場合)が受け取る年金等(退職金を年金換算した額を含む)の退職給付代替率(退職前の最終年収に対する割合)は、米国が約72%、英国が約57%、ドイツが約70%、フランスが約73%に対し、日本は約34%に過ぎません。日本の公務員の場合、ここに含まれている退職金が手厚いですが、それも近年、大きく削られる流れにあります。
 日本で公務員改革を考えるに際して、以上のような現実から目をそむけているようでは、真に機能する公務員制度は構築できないと思います。
 いわゆる「エリート官僚」については、ドイツでは連邦公務員は各省が欠員状況に応じて競争試験で採用していますが、高級職の場合、採用後、3年間の見習官吏に任命されて、いきなり課長補佐級の職務に就きます。その後、終身官吏となって、昇進は人事評価によって処遇されます。
 ただ、次官や局長は政治任用で、政権が変わると交代するようです(交代はあっても「降格」はないとのことです)。政治任用は400人程度ということですが、大使や命がけの職務である連邦情報機関、検事総長なども政治任用だそうです。現実には、終身公務員の官吏の中から政権の息のかかった官吏を任命して政権チームを構成しているようです。
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「ベルリン郊外の夕焼け、古城が見える。」

●コストよりも論理を優先して終身公務員制を徹底させているのがドイツ。
 今回の議員一行の中で唯一、終身公務員出身である私から、ホフマン局長に対して次の3点を質問しましたところ、それぞれ以下のような回答でした。
 第一に、公務員制度を考える上で最も大事なのは、そもそもその国で官僚がどのような機能、役割を果たしているかである。かつて財務省にいた頃、在ドイツ大使館を通じてドイツの連邦財務省に所管の政策について質問を投げたところ、「我々公務員の役割は政治が決めた政策を的確に遂行することであって、既存の制度や政策についての解説はできるが、政策の方針や立案に関することは政治の役割であり、それについては答えられない」との回答だった。日本の場合、各省庁が自らの省の政策を立案し、意思をもった主体として政治に働きかけていくのが通例だが、ドイツでは本当にそうなのか。…これについては、基本的にその通りで、政治と公務員の役割は明確に峻別されているとの答でした。
 第二に、各省のトップクラス官僚が政治任用だと、官吏たちは政治のほうを見て、例えば、CDU派やSPD派に官吏が色分けされたり、終身公務員制度のメリットの一つである公務員の政治的中立性が損なわれるといった弊害が生じることはなかったのか。…これについては、中立性は保たれているとの回答でしたが、明快な答とは感じられませんでした。
 第三に、ドイツのような手厚い恩給がなく、年金も必ずしも多くない日本の官僚にとって、退官後の再就職先をどうするかは大きな関心事にならざるを得ず、霞が関は退官後の「生活保障共同体」になっている。その結果、「天下り」の問題が生じ、官僚は退官後のポストを保証してくれる自らの省庁の権益を大きくすることに専念し、国益よりも省益を優先することになる。この点、恩給があるドイツの公務員はそもそも再就職のことを考える必要がないとも思われるが、実際に、民間などに再就職する事例はないのか。
 これに対する答は明快でした。「およそ公務員たる者、公務で培った能力や知識、経験は生涯、公共のために捧げるべきであって、これを民間企業の営利に活かそうというのはあってはならないこと。恩給制度があるから、ドイツの公務員は退官後の再就職など考える必要がない。天下りは問題であり、ドイツには存在しない。」
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「ベルリン郊外で最後の晩餐、血のソーセージはオードブル。」

●公務員制度の設計思想には2つの選択肢、改革に問われるのは論理性と決断。
 そもそも公務員制度には、2つの相対立する設計思想があります。
 一つは、(A)「官も民も、その能力は共通の尺度で測れるのであり、官と民が相互に出入りすることが国全体としての人材活用になる」というものです。もう一つは、(B)「およそ官の職務は民間とは異なる特殊なものであり、官に奉職する者は終身公務員として生涯をその分野の公務に捧げるべきである」というものです。
 これらはそれぞれ、それを担保する仕組みがなければ機能しません。
 これらのうち(A)が成り立つためには、その国の労働市場全体が十分に流動的である必要があります。民から官へ、官から民へという人材の流れが当たり前になりますから、再就職を規制することは基本的にあってはならないことになります。他方で、(B)が成り立つためには、生涯にわたる公務員の生活保障が必要になります。そうでなければ、良い人材を公務に確保できません。
 民間も終身雇用制の日本では、(A)を採る条件が成り立たず、大卒の段階で人材をプールする必要があり、(B)が採られてきましたが、それを担保する退官後の生活保障の仕組みが「天下り」でした。役所が再就職先を世話してくれるという安心があるからこそ、在官中は再就職先探しにあくせくすることなく、公務に専念できました。政治的中立性も確保できたわけです。それによって退官後の生活を保障するのに必要な公的コストを安上がりなものにしてきたのが日本です。
 しかし、「天下り」が問題であるとする論理を優先するならば、選択肢は2つしかないことになります。一つは、(A)を採れるよう、日本の労働市場全体を流動性の高いものに改革する道です。そのためには、公務員という一分野にとどまらない日本全体のシステム改革を行う覚悟が必要です。もう一つは、(B)を採れるよう、公務員の退官後の生活保障のコストを国民が負担することです。
 (A)、(B)の両者からメリットだけを引き出してうまく組み合わせるソリューションを見つけるのは、容易なことではありません。いずれの設計思想を選択するのかの決断がなければ、両者のメリットをつまみ食いする「継ぎはぎ改革」になってしまい、それでは弊害が大きくなるだけでしょう。
 ドイツの場合は(B)を選択し、そのコストを恩給という形で国民が負担することになったものです。そこにあるのは、コストをかけてでも論理を優先しようとする姿勢です。
 日本がこれから本気で公務員制度改革を進めるなら、これまで曖昧だった論理的な組み立てをしっかりと行い、(A)か(B)のいずれを選択するかを決断する必要があります。そして、そのいずれを選択した場合でも、それを成り立たせるための覚悟と国民合意が欠かせないことを肝に銘じる必要があると思います。
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「ベルリン州の内務スポーツ省の建物内にて、ベルリン警察の方々と。」

●欧州視察を終えて…国会論戦のバージョンアップを。
 アベノミクスで日本経済の雰囲気は明るくなりましたが、これを持続的な成長につなげるためには、すでに賞味期限が切れた日本の「戦後システム」を抜本的に組み替える大改革に取り組む必要があります。それは、これまでのようなパッチワーク的な部分改革では不可能な大作業であり、その上で、日本に欠けていたシステマティックで徹底した論理的思考に優れたドイツの改革の事例を紹介いたしました。
 8月29日、私たち一行は、ベルリン州内務・スポーツ省の警察総局への訪問を最後に欧州視察の旅を終え、10月に開会される次の臨時国会で実りある議論をするための素材をそれぞれの議員が胸に秘めつつ、ベルリンをあとにしてフランクフルト空港から成田へと帰国の旅に発ちました。なお、私に関して言えば、8月30日の成田到着後、そのままトランジットで大阪に向かい、日本維新の会の橋下代表のパーティーに参加しました。
 以上で、スウェーデン、エストニア、デンマーク、ドイツの4か国を訪れた今回の衆院内閣委員会の欧州出張の報告を終えます。
 全体的な私の印象は、日本が何事もいかにシステマティックな組み立てを怠っている国であるかを改めて実感したということです。日本ももう少し、論理的思考が政治レベルでもできる国にならねばという思いを強めました。もともと、それが、私が政治を目指した原点の一つでもあったことを想起します。
 次の臨時国会をぜひ、ご期待ください。
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「再び、ブランデンブルク門にて。」
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1. 初めて来ました!

どうも!記事読ませていただきました!アメブロをいろいろ見ていたらたどり着きました!次の更新もがんばってください!楽しみにしています!

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Author:matsuda-manabu
松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。

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