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松田まなぶ 欧州出張報告②

第2回 エストニア共和国~世界最先端のIT国家、メルヘンと維新の国~

 私たち議員団が次に訪れたのは、エストニア共和国の首都タリンでした。バルト3国の一つである同国は、1991年にロシアから独立後、IT立国を進め、恐らく世界では最先端といえるIT国家を建設しています。印象的だったのは、閣僚クラスをはじめ、面談した同国の要人がほとんど、30~40歳代の若い世代だったことです。50代以上の人はどこに行ったのか? ロシア支配下の旧体制が一掃され、まさに日本の明治維新を思わせる「新しい国づくり」へと、それを担う若い世代が国家建設に取り組んでいるのが同国の姿です。
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「エストニアの首都、タリンの風景。この美しい都市がITのメッカです。」

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「ストックホルムから青いバルト海を飛び越してタリンまで連れていってくれたのは、こんな小さなプロペラ機。」

●徹底したICT国家の建設
 エストニアのIT立国は徹底しています。15歳以上のすべての国民にIDカードが配布され、オンライン認証や電子署名などは言うまでもなく、国民のほぼすべての営みにこのIDカードが必要となっています。新会社の設立手続きは20~30分で済み、銀行取引の99%はインターネットで、国政選挙でも世界に先駆けて本格的な電子投票を実施しています。インターネット通話で知られるSkypeはここエストニアで開発されたもので、現在も、その最大の研究開発機関が同国にあります。国内には多くのIT関連企業が拠点を置き、IT技術者の育成にも力を入れています。
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「エストニア首相府の中庭」

 8月23日朝、私たち一行はストックホルムからタリン空港に到着、甲斐大使からブリーフィングを受けたあと、最初に訪れたのは首相府でした。首相府といっても、中世のたたずまいを残す美しい旧市街の中の立派な建物で、周囲には多数の観光客。同国でICT政策を担当するシクト・首相府顧問からIT国家の基本設計について説明を受けました。彼も30代の若手です。場所は、夏休み期間で空いていた閣議室。閣議の際に首相が座る椅子に私もかけて写真撮影しました。実は、閣議もスクリーンとパソコンのみで行い、紙は一切使用していないそうです。
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「閣議室の首相の座席。」

 シクトさんの説明では、同国がIT国家としてめざす目的は、第一に、Comfort(快適さ)。簡素化によって、市民は日常生活に必要な営みが簡便化し、首相の仕事もよりラクになり、電子投票などで民主主義への参加も向上する。第二に、Efficiency(生活の効率化)。デジタル署名などを通じて1日当たり1時間の企業の時間コストの節約になる、政府支出も節約され、健康保険でも処方箋の98%はデジタル化されており、その処理時間が短縮、医師から薬局へのつなぎもIDカードでOK、国民一人一人にデジタルカルテがあり、新たな検査の必要はなく、医療費も節約されている…といった具合です。第三に、Better Policy Impact(政策効果の向上)。例えば、事件解決率がアップするなど、より安全な社会の構築に貢献しているということです。
 IT立国実現の方法論は、教育と、政府がITで世界の目標となる国へと道筋をつけるイニシアチブをとることだということでした。ビジネス界でもeサービスを推進させ、国民の間でeサービスへの関心を喚起し、新しいサービスを創出させる。例えば、税務申告は95%がオンライン申告でデジタル化されていますが、国の側でデータを把握しているため、個人の確定申告内容を国側が示し、各人はそれに同意するか修正するかで5分以内で確定申告を済ませているそうです(この点は、スウェーデンでも同じような説明を受けました)。法人は100%の企業が電子提出で、あらかじめ法人データが入力されたもので確定申告しているとのことです。
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「閣議室にてICT政策の説明を受ける。」

 同国は現在、2020年までの新規目標として「Vision2020」を掲げ、大国でないからこそ可能な新しい実験を世界に対して示そうとしています。柱は、①利用者視点からのリデザイン、②国民全員が高度なデジタル能力、③高速度ブロードバンド、④サービス内容の改善、⑤eコマースなど民間部門のITCをさらに進め、生産性の向上に政府主導で取り組む、⑥国境を越え、クロスボーダーでeサービスが活用できるようにする、⑦さらに野望として、自国の電子IDを外国人にも使ってもらう、といったことを掲げています。基本的には国が手本を示し、民間に対する支援策を講じ、大学等との連携を強化することに加えて、各国との連携(例えば、サーバーは原則国内に置いているが一部は海外に、外国と相互にデータを保管し合う)なども視野に入れているということです。

●サイバーテロ対策のメッカとしてのエストニア
 その後、私たち一行はパルツ経済通信大臣主催の昼食会に招かれました。同氏は50歳そこそこで元首相ですが、まだ40代前半だった頃に首相をしていたことになります。馬小屋風のレストランでエストニアの豚肉を味わいながらのこの昼食会には、主要省庁から多数の幹部が同席し、我々一行と親しく語り合いました。皆さん、若い方々ばかりです。ここでは警察国境警備庁の副長官などから、警察や国境警備にいかにITを駆使しているかの説明がなされ、同国が開発したパトカーも見せられました。
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「パルツ経済通信大臣ほかとの昼食会。右から2番目がパルツ大臣。」

 IT管理を高度化しているこの国でも、大きな課題は、やはりセキュリティーです。マイナンバー制度を導入する日本も、実際にサイバー攻撃対策がきちんとできていなければ大変なことになると警告する識者もいます。特にエストニアは、2007年に大規模なサイバー攻撃を受けた国でもあります。「サイバー攻撃対策が本当にできるのは、自らサイバー攻撃をする能力がある国だけであり、それは米国、英国、ドイツ、イスラエルだけである」と以前、聞いたことがありました。エストニアは現在では、機密保持と信頼性向上に向けてリスクマネージメントに注力していますが、たまたまこの昼食会で私の向かいに座ったのが、前述のシクト氏でしたので、私からこの点について聞いてみたところ、「重要なのは攻撃を受けた経験である」という趣旨の返答でした。
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「昼食会場前にて、真ん中がパルツ大臣。」

 実際に、07年のサイバー攻撃を受け、その経験を活かして08年にタリンに設置されたのがNATOサイバーセンターです。翌8月24日の朝、私たち一行が訪れたのも同センターでした。この時の攻撃は人類史上最初の深刻なものだったそうで、NATOが設立を決意したものです。現在の加盟国は11か国で、4か国が今年新たに加盟するそうですが、センターの目的は、NATO加盟国のサイバー攻撃対処能力や情報力の向上で、研究開発部門を置いて各国の経験を集め、トレーニングなど人材養成や、出資国との間での情報交換や技術協力を行っています。オーストリアのようなNATO非加盟国も人員を派遣してきており、韓国も来年の訓練に参加したいとしているそうで、EUとも密接な協力関係にあるようです。
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「NATOサイバー防衛センター前にて、アレング国際関係顧問と。」

 同センターでは私から、シクト氏の言う同国の「経験」に基づく知恵とは具体的に何かを質しましたところ、銀行など民間との協力に加え、重要なのは、サイバー攻撃対策を技術者のレベルから政策決定者のレベルに上げることだという答が返ってきました。特定のソリューションに頼らず、それが傷つきやすく脆弱なものだとの認識の上に立って、例えば各大臣自らがサイバー攻撃対策の訓練や練習に参加するということも大事な要素だとのことです。これを日本の実情に置き換えて考えてみると、ITといえば競争入札参加資格のある特定の大手企業に丸投げになってしまいがちな日本政府にあっては、外国人の特定の専門技術者を政府の意思決定に関わる部局に参加させ、政府と協働して開発していただくということが困難だと聞いたことがあります。こうした各国人材の活用について、より柔軟に対応できるようにすることは、今後の課題かもしれません。
 
●透明性をもって個人情報の機密性を確保する。
 個人情報の保全については、エストニアでは「透明性を高めることが個人情報の機密性を担保する」との考え方が徹底されています。各個人はIDカードにより誰が自分の個人情報にアクセスしたかを追跡調査でき、権限のない当局関係者のアクセスに対しては異議を申し立てられます。8月24日の午後には、エストニア選挙管理委員会とICTデモセンターなどの諸機関からまとめて全体的なIT国家システムの運営についてヒヤリングいたしましたが、その際、私のほうから投げかけたのは、警察などが犯罪捜査に際して個人情報にアクセスすることについては、こうした個人による情報管理の権利の対象外であることが法的に担保されていなければ、警察は機能しないのではないかという質問でした。答は、犯罪捜査については確かに対象外であるが、起訴されて裁判に移ってからは、どのような個人情報を犯罪捜査に活用したかを公開することになっている、というものでした。
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「ICTデモセンター前にて。同センター代表、選挙管理委員会関係者と」

 同国の様々な分野の責任者たちから話を聞くたびに思ったのは、どの分野の誰もが皆さん、私たち日本の国会議員のややこしい質問にもたちどころに答え、国家建設への大きな意欲と若々しい志を感じさせてくれたことでした。まさにこの国は、「新しい国づくり」へと「維新」をしている。日本では私たち日本維新の会こそが共感によって結ばれる存在なのではないかと感じます。
 
●公文書の保管まで体系性をもったシステム対応
 さて、話は前後しましたが、前述の23日の昼食会のあと我々一行が訪れたのは、エストニアの国立公文書館でした。日本の国会議員が訪れるというのは滅多にないことなのでしょう。館長が公文書保存の重要性と、同国の体系的な取組みを熱心に説明してくれました。江戸時代の日本地図や、日露戦争に際しての機密文書など興味深い公文書も見せていただきましたが、私が何より感心したのは、同国では公文書の保存を国家存立の重要な基盤として位置付けているという点でした。
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「エストニア国立公文書館にて。歴史上の興味深い文書が多数。」

 日本の官僚組織にこうした認識がどこまであるのか。私の経験でも、日本政府はシステマティックで体系的、普遍的対応ということに大きく欠けてきたと言わざるを得ません。業務上の文書も、人事異動の際の事務引き継ぎにおいて、役人が個人的に蓄積したファイルを後任に受け渡し、あとは、引き継がれた役人の個人的管理のもとに委ねられてしまうというのが通例だったと思います。現在では局議資料など公文書として公開の対象になる文書の指定管理はもう少し進んでいると思いますが、どこまで体系的なものになっているか疑問なしとしません。そういえば、かつて大蔵省の金融部局が解体、金融監督庁へと移行する直前に、過去の裁量行政時代の文書の大量廃棄が熱心に行われていたことを思い出します。
 
●エストニアの国政上の課題
 エストニアではもう一つ、私たち一行は8月24日の午前、サイバーセンター訪問のあと、大聖堂の真正面にある国会をも訪問し、ミフケンソン外交委員長と会談いたしました。同氏もまだ43歳の気鋭の国会議員です。同国政界は右派2党が現在は政権に就き、左派2党が野党であるとの説明がありましたので、エストニアのように西側の一員として一丸となって維新を進めている国で政党間の対立軸は何なのかと私のほうから質しましたところ、右派は経済成長、左派は社会保障にそれぞれ軸足を置いており、現在は成長の果実をより公平に分配すべきとの議論が対立軸になっているという説明でした。
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「タリンの大聖堂。向かい側が国会。」

 この点では、このような小国でも状況は他の先進国と同じですが、大きな問題はロシアとの関係ということで、憲法の原則としてロシアから離れつつあっても、色々な面でより良い関係を構築する以外に現実的な選択肢はないということでした。特に、国土の5%あまりを占める面積がスターリン時代にソ連に編入され、現在もそれをめぐる国境問題が大きなイシューである点では日本と似たような問題を抱えているようです。それが解決できれば、国境インフラを改善し、内政の問題に集中できるということでした。
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「エストニア国会舞前にて。ミフケンソン外交委員長と。」

 同氏は、エストニアの発展の背景には、同国民がプラグマティックな国民性を有していることからIDカードなども早く定着したことを挙げています。サイバー空間には国境がなく、各国間との協力が大事であることを力説していました。
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「外交委員長との会談。」
 
●メルヘンとイケメンの国?、エストニアは日本にとって大事な穴場
 以上がエストニアでの訪問先ですが、これらのほか、私たち一行は、8月23日の夜は大使公邸で夕食をとりながら、甲斐大使から現地情勢の説明を受け、また、23、24日の夕刻の時間に加えて、特に25日は日曜日でしたので午前中は、タリンの旧市街を散策するなど、初めて訪れたエストニアの街の魅力を楽しむ時間を持つこともできました。
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「8月23日、大使公邸にて。前列右端が甲斐大使夫妻。」

 ここで、エストニアの魅力について、若干、触れさせていただければと思います。この国は恐らく、これから日本の特に若い女性からも観光地として脚光を浴びることになるのではないでしょうか。「メルヘンとイケメンの国」で売り出せば良いとの声も一団の中にはありました。欧州でもプラハと並んで最も中世を遺した美しい旧市街は心が休まりますし、行き交う人々が美男美女ぞろいです。観光地としてドイツを中心に各国から観光客が訪れていますが、他の欧州の大都市などに比べて、まだアジア系の観光客はほとんど見当たりませんでした。
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「赤い屋根のタリンの街」

 名産品は手作りのハンドクラフトで、テーブルクロスなどの布製の刺繍物、手作りの革製品、手袋、食器などの木工の日常品など、意匠の優れた魅力的な小物が安価で手に入ります。さすがに私も、タリンではショッピングをいたしました。地の利としては、日本からならフィンランドのヘルシンキから入るのが便利でしょう。ヘルシンキ、タリン、そしてサンクト・ペテルブルクと、バルト海の船旅を組み合わせながらの観光も魅力的です。
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「タリンの中央広場」

 課題は、冬の寒く日照時間が少ない季節かもしれません。ウィーンなどはこの点で成功した都市ですが、エストニアも音楽は盛んで、政治家がタリン郊外の地元の小都市にコンサートホールを誘致したところ、タリンの市民が1時間ぐらいかけて音楽を楽しみに訪れるようになり、地域振興になったという事例もあるそうです。文化的蓄積があり、民度も高く、食事も美味しく、色々な要素がそろっています。
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「屋台の店も並ぶクラフト店街。」

 24日の夜の自由行動の時間は、私は議員団一行から離れ、エストニアで10年以上、事業で成功している日本人の方と、古い調度品に囲まれた落ち着いたレストランで食事をとるなど、現地をさらに堪能させていただきました。
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「骨董品であふれるレストラン、名前はエゴイスト。」

 全体として、日本にとってエストニア共和国は、こうした観光などを通じて国民どうしが交流を深め、日本にとってこれからますます馴染みのある存在になっていくと思います。加えて、どちらかといえばシステマティックな対応に弱く、大国として身動きもとりにくい一方で、個別技術ではまだまだ強みのある日本にとってみれば、進取の気性に富み、小国としてのメリットも活かしながら、大胆なシステム設計を次々と実験できるベンチャー国家でもあるエストニアと手を組むことは、色々な意味で大きな成果を生み出す可能性を秘めていると思われます。日本政府としても、IT関連やサイバーテロ対策の人材をエストニアに常駐させるなど、具体的な協力関係を強化していくべきだというのが、私たち国会議員団の総意でした。
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「タリンの日曜の朝市。」

 25日の昼過ぎ、私たち一行はタリン空港から次の訪問地であるコペンハーゲンに向けて飛び立ちました。
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Author:matsuda-manabu
松田政策研究所は、松田学を中心とした講師・研究員が、これからの日本の未来に関する国家像や社会の在り様について総合的な調査・研究 を行い、夢を持てる国づくりの基盤を創り、社会と国家の発展に寄与するのが目的です。

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